脳の襞に直接用をたされたやうな堪へ難い不快感と屈辱を感じた、彼は一策を考へだし、宗教家らしく人間の尊厳に訴へてこれを防がうとした、半紙に墨黒々と『このところ、犬の他小便すべからず―』と書いて塀に張り出してをいた。
効果は良いやうであつた。この神官の家が明るい街が急に切れたところの淡暗い路地にあつたために通行人はその角まで膀胱に力をいれてきて横にかけこんで、いつぺんに膀胱をゆるめるといふ状況にあつた。然しこの貼紙以来、通行人達は人間的な尊厳と万物の霊長であるといふ自覚を失ふまいとして、また犬でありたくない気持からこの貼紙を読むと神官の塀を避けたのであつた。
然し問題は却つてそのために紛糾してしまつた、といふことは、通行人達は彼の塀は避けたが、ものの三間とも歩るかずに、その神官の隣りの家の玄関脇の塀には何の貼紙のないことを発見したからそこで用を足してしまふのであつた。
悪いことには、神官の隣家といふのはこの界隈でも喧まし屋で有名な仏教家の古河氏の家の塀であつたために、古河氏は隣家の貼紙が却つて自分の家の不浄化に拍車をかけた形になつたことを非常に憤つた。
『実に怪しからん、あの貼紙の文
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