は籐椅子より機能《はたらき》が無いぢやないの』
『よし、判つた、ぢや籐椅子を呉れてやる、出てゆけ』
『出て行くわよ、立派に女だつて一人で働いて生活してゆけてよ、妾、籐椅子と結婚するわよ』
区役所婚姻係であるところの本官は――かゝる理由に基くところの、この婦人の籐椅子との正式結婚の届出に接したのであります。
婦人の意識的なる産児制限は、婦人から母性を喪失せしめ、生活力無き夫との生活は、性生活を営まぬところの、籐椅子との生活と何等変るところなし、とするこの婦人の考へ方は、将来に於ける婦人の結婚に対する、絶望と不安を招来し、真鍮製の大根オロシとの結婚、木製バイオリンとの結婚、石油コンロ、洋服箪笥との結婚等の傾向を示すだらうこと明らかであつて、本官は経済的逼迫が刺戟するところの、あやまれる婦人の唯物思想への転心を憂へるものでありまして、これら無機物との婚姻を、正当として届出を受理するや否や、籐椅子に公民権を与へることの可否に就いて、上司の賢明なる指示を望むものであります。
『飛つチョ』の名人に就いて
汽車は崖の間を過ぎ、トンネルを潜り、広い平野を突切らうとして走つてゐた。客車には
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