する神の神格を故意に汚しとると思ふのだ実に怪しからん、全宗教界の問題として宗派院に訴訟する』
と神官はかんかんに怒つた、この係争は続いた、問題はそして今回の東邦宗徒連鎖聯盟会議にも持ち出されたが当日の決議としては
人間的立場からみて、人間を対照としての貼紙『犬の他小便すべからず―』はすこぶる人間自身に対して穏当でない、鳥居を描くこと勿論よろしくない、この二種の貼紙は両家に於ても撤回すること、尚最近これを真似て一般がこの種の貼紙を貼つてゐるのを多く見かけるから、これは宗教婦人会で会が総出で都市の隅々をかけまはつて剥とるため奉仕週間を作ること。
もう一つの問題は通行人の膀胱の緊張を調節し緩和するためには、この都市にはあまり共同便所が少ない、この共同便所の少ないことは人間の居宅に近く放尿するといふ結果になるから至急政府に向つて共同便所増設の請願猛運動を起すことに決議された。
『それと同時に諸君、犬の共同便所も敷設することを政府に請願すべきと思ふのであります――』
『議長それは反対であります、国家にはそれほどの経費はないと思ふのであります』
『議長へ申し上げます、我輩はこの問題は犬がなぜ片足をあげて小便をするかといふ問題の解決が一切を解くと思ふのであります(拍手)つまり――もし犬が片足をあげないで用を足すことができれば、塀には毫末も引かゝらず直に汚物は地に吸収されるのであります、これに対して何か諸君に良い案が有りませんか、ありませんか、ありませんでしたら私が案を申します、我々宗教家は街の犬が小便を催しさうな、気配を知つたならば、そのために用意されたところの腰掛けに車を附したものを人間が引いて行つて、犬の前に運びます、犬はその上に腰をかけて用を足すでありませう、つまり西洋風な一種の便器ですな』
そのとき議長は机の上をカンと拳でうつてから案の提出者に質問した。
『たいへんよろしい案のやうですが、しかし問題がこんがらかつたやうであります、あなたの最初の問題を解く鍵、犬はなぜ片足をあげて小便をするかといふことを御説明願ひます』
『議長先をお聞き下さい、私は熟慮の上で犬のためにこの案を持ち出しました、我々が車付き西洋腰掛け便器を運ぶ理由はつまり何故犬は片足をあげて小便をするかといふことでつまり両足一ぺんにもちあげられないからであります』。
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犬と女中
――犬と謎々のうち――
心理学者吉植吉三郎博士の家庭では女中を解雇した、この女中といふのは、博士夫人が良い女中がゐなくて困ると、出入りの植木屋の顔をみるたびに[#「たびに」は底本では「たびた」]愚智[#「智」に「ママ」の注記]をこぼすので、植木屋が自分の郷里の新潟から呼びよせたものであつた。女中が解雇されてから三日目に植木屋がやつてきた、夫人に向つて
『わたしもあの娘だけはお邸に勤まると思ひましたので、それに田舎とは申しましても、とにかく土地の補習学校も出てをりますし、さうまるつきりの愚か者とも思ひませんでしたので』
と植木屋はもみ手のやり場にこまつた、しきりに尻をもぢもぢして恐縮するのであつた。夫人は植木屋に気の毒さうな表情をした、
『実はね、あの娘は、新聞を読むのも、主人の気に入りませんでしたの――』
『ほう、新聞を読むので、御暇でございましたか、すると何かお仕事の最中にでも、終始よむのでございましたか――』
『いゝえ、仕事はまじめでしたの、なにせ主人が新聞を拝見する前に、あの娘が新聞をみるといふ悪い癖がありましてね』
『――成程』
植木屋は、さつぱり理由がわからなかつたが、女中の解雇の理由にもいろいろあるものだと心に感心した。
吉植博士は、寝床の中で、二種の新聞にずつと眼を一わたり通してからでなければ、起床しないといふ習慣であつたが、博士は新潟からきた女中が、朝早く起きて、玄関の鍵を外しに出たとき、玄関先に突立つて、新聞をひらいて、ざつとそれを読み、それからもとのやうに折畳んで、主人の枕元にもつてくることがわかつた、そのことが博士の自尊心をたいへん傷つけたのであつた。
大速力をもつてまはる新聞輪転機、それに噛まれる巻取紙には、片つ端から文字が転写されながら、白い河のやうに流れだす、一切の機械的な操作で刷られる、その処女的な新鮮な、軽い油の匂ひと紙の匂ひをプンと匂はす、それを寝床の中で嗅ぐといふ博士の毎朝の楽しみは、新潟から女中がきてからぶちこはされてしまつた。
購読料を払つた主人の権限を、購読料も払はない使用人ふぜいが先ず犯す――、
『実にたまらん、それに折目はめちや、めちやだ、近頃のわしに紙や活字の魅力的な匂ひは、みなあの女中奴に横領されてしまつた、実に不快そのものぢや――』
博士の不満に夫人は女中に向つて
『ネ
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