ぎ上ると、種豚を押へつけ、お尻の肥えたところを、掌《てのひら》ほどの大きさだけ、庖丁できりとつて、そのあとに土を塗つてをきました。
 その夜は、豚のお尻から削りとつた肉を、鍋で煮て、お酒をのんで、おいしい、おいしいといつて男は眠りました。
 翌る日のことです。豚のお尻の創《きず》あとは、ちやんと治つてをりました、以前にもまして脂肪《あぶら》がキラキラと光つてをりました。
『ほう、これは不思議、なかなか便利ぢやわい。』
 男は喜んでその日は、前日左の尻の肉を切りとつたので、こんどは右の尻を掌ほどの肉を切りとりました。
 その翌日、大変な事が起りました。
 何時ものやうに、種豚のお尻の肉を削りとらうとして、尻に庖丁を切りつけました。そのとき、何処からともなく、物の焦《こ》げつく匂ひがしてまゐりました。
 つづいて、パチンパチン、と何やら金物の割れる音がしました。
 男は鼻を、ピク、ピク、させました。
『これは失敗《しまつ》た、フライパンを、火にかけたまま来てしまつたぞ。』
 お台所に、駈けつけてみると果たして肉鍋は、火の上で割れてゐました。今度は豚小屋に引返してみると、豚はお尻に庖丁をさし
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