の行衛《ゆくゑ》がわかりませんでした。
 一人の大将の家来が、或る街の処刑場《しをきば》の獄門の下を通りかかるとおい/\と家来を呼び止《とめ》るものがありました。ふと獄門の上を見あげますと、獄門の横木の上に、行衛《ゆくゑ》不明の馬賊の大将の首がのつてゐるではありませんか。
『おや、これは大将、なんといふ高いところに、家来共は夜《よ》の眼も寝ずに、あなたさまの行衛《ゆくゑ》を探してを[#底本の「お」を「を」に変更]りましたのに。』かう言つて獄門の首を、家来は見あげました、すると大将の首は、たいへん不機嫌な顔をしながら『つくづくと、わしは馬賊の職業《しやうばい》がいやになつた。山塞に帰つて、みなの者に言つてくれ、大将は、たいへんたつしやで、毎日陽気に月見をしてゐるから、心配をしないでくれ。たまには人間らしい風流な気持になつて、この大将を見ならつて、酒でものんで月でもながめる気はないかとね。』
 大将は、獄門のうへで、二日酔のまつ赤な顔をしながら、かう言ひました、そして陽気に月をながめながら歌をうたひました。
 切られた大将の首は、酒場でたらふくお酒をのみましたので、なかなか酔がさめませんで
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