騒ぎの最中に、一羽の鳶の子が、転げるやうに飛んできて
『みなさん。大変ですよ、母さんが急にお腹《なか》をやみだして、悪いんですよ』と告げました。
 鳥達は母親の危篤と聞いて吃驚《びつくり》して、あわてて川からあがるものや、化粧道具を片づけるものや、それはたいへな騒ぎとなりました。
 なかでもふだんから、いちばん親孝行な、アマム・エチカッポ(雀のこと)は、いま小さな壺をもつて、口をそめてゐた最中に、この知らせを聞いたものですから、
『わたしお化粧どこぢやないわ』と言つて墨のはひつた、いれものをぽんと後に投りました。
 そしてたいへん慌てながら、傍《わき》に化粧をしてゐた、おめかし屋のイソクソキ(啄木鳥《きつつき》のこと)にむかつて、
『さあ、母さんの病気です。いそいで参りませう』と言ひました、するとイソクソキは
『お腹の痛いくらいなら、大丈夫よ、わたしお化粧が、いますこしで終へるんですもの。』
 かう言つて動かうとはしませんでした。
 アマム・エチカッポは、イソクソキにはかまはずに、母親のところへ、どの鳥よりもまつさきに馳けつけましたが、親不孝なイソクソキは、どの鳥よりも、いちばん後《お
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