によくねむつてゐましたよ。』
 赤い小鳥はいひました。
『まあ、あの子は何処へでもよく歩るき廻る子でね。』
 母親は姉娘の居処が知れましたのでうれしさうに小鳥にむかつて言ひました。
 それから五六日して、沼岸に赤い小鳥があそびにきましたので、
『あの子は、まだねむつてゐるでせうか。』
 父親はかう小鳥にむかつてたづねました。
『よくねむつてゐますよ、黄色い上着もなにもぬいでしまつて、まつ白い体をしてね。』
 小鳥はいひました。
『風邪をひいては困るのにね。』
 母親はちよつと心配さうな顔をして言ひました。
 それから五六日経つて、沼岸に赤い小鳥が来ましたので親達はまた、
『姉娘はまだねむつてゐるでせうか。』
 と質《たづ》ねました。赤い小鳥は、
『ずいぶんよくねむつてゐますよ。眼玉がとけて了ふほどね。』
 と答えました。
『まあ、なんといふ呑気《のんき》な、幸福な子だらうね。』
 黄色い魚の一家のものは、みな安心したといふ風に、沼の水底の家に帰つて行きました。しかし妹娘の魚だけは、なにかしら悲しい気持がこみあげてきましたので、さめ/゛\と沼岸にいつまでも泣いて居りました。

 いまでも
前へ 次へ
全137ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング