ば大変と思ひましたので
『それでは、約束のわたしの頬の肉をおあがりよ、そして元気をつけてください』
と言ひました。
猫は魚の頬の肉を喰べて了ふと、どん/\後もみずに逃げてしまひました。
魚はたいへん橋の上で悲しみました、そして誰か親切なものが通つたなら、海まで連れて行つて貰はうと思ひましたが、さびしい街|端《はづ》れの橋の上はなかなか通りませんでした、そしてその日は暮れてしまひました。
翌朝《あくるあさ》幸ひ早起きの若い溝鼠《どぶねずみ》が通りましたので、魚はこのことを頼んで見ました。
溝鼠は
『それはわけのない話だ、しかし道程《みちのり》もかなりあるし、私もまだ朝飯前だから』
と言ひましたので、魚は自分の片側の肉を喰べさして、そのかはりに海まで運んで貰ふ約束をいたしました。
溝鼠は魚の片側の肉を喰べてしまひました、それから魚の胴に長い尻尾を巻いて引きだしました、その日の夕方にひろい野原につきましたが、溝鼠は
『とても私の力では、あなたを海まで運べさうもありませんから。』
と言つて、魚を野原に捨てて、どんどん逃げて行つてしまひました。
魚はたいへん悲しみました。
そ
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