人達は、この酋長を父のやうに崇めてをりました。それでもしも奇怪な小男が、自分達の村の酋長を海に連れて行つてしまふやうな、不幸なことになつては大変だと、村人達は心配しました。そこで夜の海岸にアイヌ達は焚火をして、白い御幣《ごへい》を砂の上にたて、そのまはりを取りまいて、アイヌの神様にむかつて『どうぞ私達の村の酋長を悪い小男が連れて行きませんやうに――』と熱心にお祈りをしました。しかしそれは無駄でした、あるときこの村の海の沖合にも、突然小男の帆前船が現はれたのでした。
 酋長夫婦の驚きはもちろんのこと、村人達は悲しみました、酋長の妻はこの突然の出来事をどうして切り抜けて、夫を救はうかと小さな胸をいためました、それは神様にお祈りをして、助けてもらふよりしかたがないと考へましたので、夫のために一生懸命祈りつゞけましたが、その甲斐もなく、海岸にあらはれた小男の姿は、一直線に酋長の家にやつて来ました、そして例のやうに
『海に行かう、海に行かう、海は大変きれいだよ――』
 と低い太い声で言ひました。
 若い酋長は、小男の槍は神技《かみわざ》のやうに早いことを知つてゐたので、とうてい小男を倒すことは出
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