婦人発行年月不明)

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狼と樫の木

 村の中に一本の樫《かし》の木が生えてゐました。何時頃からか、この樫の木の根元の大きな洞穴のなかにずる/\べつたりと一匹の大工の狼が住むやうになりました。
 樫の木は狼を抱へて風を防いでやり、狼もまた自分の毛の温《あたたか》みで樫の木を暖めてやるかたちになりましたので、狼と樫の木は結婚してしまひました。
 この大工の狼は、鼻柱も強く、仕事も自慢でしたが、何分にも貧乏なので、仕事がなくて、自分の腕のよいところを見せる機会がありませんでした。
『なあ、わしの可愛いゝ樫の木や、いまにきつとわしの腕を認めて、王様がわしを雇いにやつてくるから、その間は苦労をしようね』
『ええ、貴方の出世のためなら、妾《わたし》はどんなになつてもいとひません――』と樫の木の妻君は涙を浮べました。
 狼と樫の木はお互に暖め合つたり、なぐさめあつたりしてゐるので何の不満もないはずでしたが、近頃になつて、大工の狼の腕の良いことが何時の間にか王様の耳に入つたらしく、今にも大工狼を呼びに王様のお使ひがくるといふ噂が、どこからともなく狼の耳に入つてきました。
 
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