の新しい桐の木と結婚するなんて』
と狼を憎む声がだん/\高くなつて来ました。
村の王様といふのは、珍らしいもの好きな性質がありましたから、憤慨してゐる樫の木がおかしくてなりません、そこで茶目気を出して、踏台をお城に雇ひ入れることにしました、踏台は王様に雇はれると急に大きな声で叫びだし
『悪い狼奴がどうして妾を欺《だ》まして、出世をしたか――』といふ長い文章を書いて王様に進呈しました。
王様はこれを城壁にはつて、村に住んでゐるものゝ意見をきゝましたが、誰一人として狼の味方をするものがありませんでした、みんな樫の木が可哀さうだといふのでした
狼はすつかりしよげてしまつて、長い耳を垂れて耳を塞いで
『世の狼共よ、かしの木と結婚するのは良いが、決して踏台にはするもんではないよ』
といひました。(小熊夫人書き写し)
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マナイタの化けた話
海の水平線に、小さな帆前船が現はれました。見ると船の上には、四五人の人が立つてゐて、手をふりあげて、岸にむかつて助けをもとめてゐました。
アイヌの村に、この奇怪な船があらはれると、アイヌ達は『それやつてきた――』と大騒ぎになります、アイヌ達は家の中に逃げ込んで、戸口をしつかりと押へつけ、そとから開かないやうにしました。
そして恐ろしさにぶる/\ふるへて居りました。アイヌ達の犬も、ふだんは猟に出て熊と格闘をするほど勇気がありましたが、この幽霊船が現はれると、尻尾をまいて、ちゞみあがつて、家の中に逃げ込んでしまふのでした。
沖に現はれた帆船の上からは、小舟がおろされ、見ると子供ではないかと思ふほどの小さな男が短かい手槍を抱へて、ひらりと小舟に飛びをりました、顔が朱のやうに赤い男でした。
小男はたつた一人で小舟にのつて、上手に漕ぎながら、岸にむかつてやつて来るのでした、船が岸に着くと、小男はその村の酋長の家の戸の前にたちました。それから戸を叩きながら『海へ行かう、海へ行かう、海は大変きれいだよ』といふのでした。
するとアイヌの酋長は悲しさうな顔をして戸口にあらはれました。そして酋長はこの不思議な小男に連れられて、沖の船に乗せられてしまひました、酋長はいつまでたつても村に帰つてきませんでした、もし酋長が、『私は海へ行くのは嫌です――』などと言へば、たちまち小男の手槍で突き殺されてしまふのです。アイヌ
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