な顔となつてしまひました。
或る日、唖娘がよねんなく、野原で花びらをつないでをりましたところがいつの間にか自分の傍《そば》に、緋の衣装《ころも》をきた少女が坐つてゐて、をなじやうに花びらをつなぎ始め、をりをりにつこりと、優しく唖娘に笑顔をむけましたが、とう/\いつの間にか二人は仲善しになつてしまひました。
しかし唖娘は物を言ふことができなかつたので、どんなに悲しかつたでせう。
四
唖娘が、ある晴れた日、いつものやうに草原に坐つて花をつんでをりました。
すると、どこからともなく、美しい一人の男の子がやつてきました、そしてふところから、それは/\美味しさうに熟した、唖娘には、かつて見たこともないやうな果物をひとつだして、くれました。
しかし唖娘は、頭をふつて、けつしてたべようとはいたしませんでした。
それは、小母さんが、唖娘に毎日の食物として牛乳より他にくれませんでしたし、そのほかのものをけつして食べてはいけないと、かたく禁じられてゐたからです。
すると男の子は
『笑ふことも、泣くことも忘れてしまつたお嬢さま、その実を喰べると声がでる。』
かう言つて、果物を置いたままに行つてしまひました。
唖娘は、小母さんの言つたことも忘れてしまつて、他のお友達のやうに、声をだして笑つたり泣いたりしたいばつかりに、その果物を喰べました。
すると遠くの男の子は、急に大きな鳥になつて、さん/゛\唖娘を、あざ笑つて飛んでしまひました。
意地の悪い鳥に、欺されて唖娘は、果物をたべたので、声がでるどころかいままでしぼみかけた薔薇の花でも、唖娘が接吻をすると、ぱつと元気よくひらいたのが、それもできなくなつたのです。
『唖娘、お前は、けふ野原でけがれた果物を喰べたにちがひないよ、あんなに清い唇が、汚《けが》れてしまつてゐる。』
かう言つて小母さんは、さん/゛\唖娘を鞭で打つたうへ、薔薇の花園を追ひ出してしまつたのです。
唖娘はしかたなく、野と云はず山と云はずどこと言ふあてもなく歩るき廻りました。
するとある日の夕方、大きな白い牡丹の花が、みわたす限り海のやうに咲いてゐる広い花園に着きました。
唖娘はもう悲しくなつて、この牡丹の花のなかにじつと立つて、途方にくれてゐるとそのとき唖娘の傍《そば》に咲いてゐた一本の大きな牡丹の花が
『かあいさうなお嬢さん、土の中に両
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