々は[#「は」に「ママ」の注記]
迫[#「迫」に「ママ」の注記]切に期待してゐるのは
まづ、早く、二つ民族の
プロ詩人の固い握手をすることだ!
[#ここで字下げ終わり]

小熊(6)[#「(6)」は縦中横]支那の詩人よ
[#ここから3字下げ]
君の日本語はロレツが廻らない
だが君はこんなに文字の上では
立派に真理を語り終せてゐる、
日本でもゼイタクな詩人は
文字を引き廻すことにかけては
天才だが、
さつぱり人間の真実を語つてゐない、
風がもつてくるウナリに耳傾けて
少しは嵐の気配を知つてもよいのに
彼等は焼けたフライパンの上で
徒にとびはねる油のやうに
身の置きどころないよと
騒ぎまはつてゐるだけだ、
皮肉に冷静に歌はう
支那と日本のプロ詩人よ、
[#ここで字下げ終わり]

雷(7)[#「(7)」は縦中横] 青緑の野原
[#ここから3字下げ]
静かな川
茫茫な海
大自然よ、
お前は原始の平和へ
くり返すことも出来るか
やかましい恐怖の騒音
一本の草さへも怖気がする、
又歴史の新段階への前夜に
空前的[#「的」に「ママ」の注記]激しい突変
処々に伝へてる
爆発のシグナルを、
我々も具体的
正確的に準備しなければならん、
歴史に背負はされる
重大な役割を。
[#ここで字下げ終わり]

小熊(8)[#「(8)」は縦中横]反逆的な夜明け前の
[#ここから3字下げ]
ただならぬ陣痛は
巣の中からきこえてくる、
雌鶏よ
われらが蹠をもつて
歴史を押へよ、
羽毛をまきちらして
いま何を激しく
雌鶏たちは身ぶるひしてゐるか、
この瞬間のために
鶏舎の中の鶏共は
みな汗を掻いて
合唱《コーラス》してゐる
新しい苦痛よ、
お前は生れた、
[#ここで字下げ終わり]

雷(9)[#「(9)」は縦中横] 私は涙の流れを忘れた
[#ここから3字下げ]
腹の飢えを忘れた
喜びも、悲しみも
恐れも、又死ぬことも。
まるで、山山への狩猟者のやうに
発現[#「現」に「ママ」の注記]されぬ処への探険者のやうに
又戦場への[#「の」に「ママ」の注記]出発してゐる兵士のやうに。
私は自信をもつて
自分の勇気と毅力を加へる
最後の目的を到達しようと、
出来なくても
新らしい時への奉仕を
尽くさねばならん。
[#ここで字下げ終わり]

小熊(10)[#「(10)」は縦中横]人々の生活の茫然へ
[#ここから3字下げ]
わたしは何かを投げいれよう
火薬のやうなものを
跳ねとぶものを、思想を、
そして私へ与へられた仕事は
人々の生活へ衝撃を与へることだ、
愚劣な到底ガマンの出来ない
人々の生活の反覆性を
誰が一方で支配してゐるか
我々はそれを知つてゐる、
私はこの支配へ貢ぎ物をする、
到底受けとることの出来ない
はげしい特別な思想を――、
[#ここで字下げ終わり]

雷(11)[#「(11)」は縦中横]我々はどうしてもまけない
[#ここから3字下げ]
まけだらうかとも思はぬ
ある場合に襲撃すべきか
退守すべきかの術を択ぶだけだ。
それは気取るではなく、
決闘の精神がする[#「る」に「ママ」の注記]である
我々の信条を厳守するために
我々の生きるべき途へ
まつしぐらに進むために
理想の世界を憧れながら、
探射[#「射」に「ママ」の注記]燈で
まつ暗い夜幕をつぶして
遙かに伸びて行く航路をひらく、
太陽が大地を支配するまでに。
[#ここで字下げ終わり]

小熊(12)[#「(12)」は縦中横]たたかふ術、政治はなだらかな自然さか
[#ここから3字下げ]
坦々たる路を坦々と
悠々たる川を悠々と
岩石にふれた瞬間
反逆的な思想は光彩を発して
飛沫は高く天にのぼる、
瞬間的な喜びへ
すぐ訣別の時がやつてくる、
あゝそして喜びや失望やらが前後して
美しく光つて河下へ下る
[#ここで字下げ終わり]


ハンマーマンの歌

力のかぎり
打撃《う》つことの
悦こびよ、ハンマーマン

整[#「整」に「ママ」の注記]確に
打撃《う》つことの
勝利よ、ハンマーマン

快楽は
打撃《う》つことの
労働よ、ハンマーマン

ハンマーマン
[#ここから3字下げ]
ハンマーマン
[#ここで字下げ終わり]

われらは鉄の友
われらは火の主人《あるじ》
われらこそは
ハンマーマン


便乗丸船長へ

君は次から次へと
波へ乗ることの巧みな
便乗丸の船長だ、
君はいつも地の利を応用する
またいつも太陽を背にして
このマブシイものを利用しながら
指導者ぶつて
号令をかけることを忘れない
ヒステリックにそして叫ぶ
――指路をさへぎるものは
 すべて罰当りだ――と
しかし我々はフンと笑つてやる、
君は海には悪擦れするほど
馴れてはゐるが
きつと一度はほんとうの海の塩辛い味を
知ることがあるだらう――。



底本:未収録詩編・俳優女流諷刺詩篇
   「新版・小熊秀雄全集第四巻」創樹社
   1991(平成3)年4月10日新版第1刷発行
   雑纂・補遺詩編
   「新版・小熊秀雄全集第五巻」創樹社
   1991(平成3)年11月30日新版第1刷発行
※「未収録詩編・俳優女流諷刺詩篇」は、第五巻の「新版小熊秀雄全集完結にあたって――訂正、ご案内、お礼」をもとに誤植等の訂正を加えた。
※伏せ字は、底本のままにした。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:八巻美恵
校正:浜野 智
2006年2月23日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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