寝台の上でも
われわれの肉体は腐らない、
われわれの真理はカビない、
愚劣な堪へ難い夜よ、
早く明け放れてしまへ、
ひきちぎれ
消極的なにがにがしい、
苦悶のヒダ飾りの
灰色のカーテンを、
他人の手を待つ必要はない
我々のすぐ手のとどくところから
我々の手をもつてそれを行動しよう
[#ここで字下げ終わり]
雷(8)[#「(8)」は縦中横] 心配しねえ
[#ここから3字下げ]
心配しねえ
夢みよ
その真実な夢を。
いや、それのみならず
又、夢からメザマし
大胆で
飛びかかつて来る
虎狼の耳朶を掴んで
そいつの背にまたがつて
腹までにしつかりと挾む。
それから、拳固で
そいつの頭を打ちつぶす、
山山に 野原に
我々のコルホーズを
ひろげよう
大地の涯までに。
[#ここで字下げ終わり]
小熊(9)[#「(9)」は縦中横]幸福な土地への強烈なあこがれよ、
[#ここから3字下げ]
堪へ難い日常生活を
行動への魅力で
救済しようとする
単なる魅力として終るか、
新しい前進の現実を
具体的に土の上に建てるか、
直接クワをふるふか
クワをながめてゐるか、
暗い朝を紫の帯をひいて
雲が走つてゆく、
そして農夫のコーラスは
どこからともなくきこえてくる
[#ここで字下げ終わり]
作品第二番 三十一日夜
雷(1)[#「(1)」は縦中横] 我々は
[#ここから3字下げ]
不同の血液で
共同の敵を爆炸する
炸弾をつくる
不同の言葉で
あらゆる民族の城池を
吹きつぶす颱風を
呼び起さう
統一的なイデオロギーを
もつて自衛し
最も妙な戦術を
もつて攻襲する
我々は世界矛盾
白熱化の焦点に
総爆発する火力を
強く準備する
まるで火事後に
新しい建設を準備するやうに。
[#ここで字下げ終わり]
小熊(2)[#「(2)」は縦中横]同じからざる敵を
[#ここから3字下げ]
同じからざる味方をもつて迎へ撃つ、
炸弾は個性的に
跳ねとぶだらう、
確固不動の
精神に前進を命じよう、
濶達な青年として
たたかふ場所は広い、
撃たれるものも
撃つものも豊富である。
豊富とは美である。
そして地球は丸い
敵味方で充実してゐる、
そこに混迷も暗黒も漂泊も待つてゐる
[#ここで字下げ終わり]
雷(3)[#「(3)」は縦中横] 私はルンペン詩人になりたい
[#ここから3字下げ]
鉄砲のやうなペンを背負つて
到る処へ狩猟し游撃する
弾丸の痕――字の跡で
悪魔を駆立つ符を綴り
自覚せる人間の眼をめざまして
暗夜の悪夢から
真昼の憧れへと
一歩/\に正しい現実の途を
踏みしめて
生きるための闘ひをさせなければならん、
私もいづれかの隊の中に
前に立てば
旗手になり
後に守れば
ラッパになる
戦後に私の屍を[#「を」に「ママ」の注記]見えなければ
毎度慶祝記念会の台上に
私の歌を[#「を」に「ママ」の注記]聞えるだらう。
[#ここで字下げ終わり]
小熊(4)[#「(4)」は縦中横]鼓膜よ、
[#ここから3字下げ]
われわれの耳よ、
さわがしい人生に
答へてくれるお前よ、
砲弾の中の歌は
どんなにお前をふるはすか、
感動をもつてわれらの耳は
ウサギ馬のやうに敏感だ、
やさしい暁の憧憬者は
たつたいま暗夜の叢の中から
とびだしたばかりだ、
そして友よ、君の弾に
私のウサギ馬は撃たる
君の真実に――、
そして倒れる、
そして蘇生する、
そして君を乗せて共同の路を走りだす、
[#ここで字下げ終わり]
雷(5)[#「(5)」は縦中横] 私と君
[#ここから3字下げ]
いや、私達と
無数の勤労大衆に
無条件的に
そして必然的に
親善と合作をする事は出来る
しかし強盗は
ある家の主との[#「の」に「ママ」の注記]犬に
親善と合作をするといふのは
匕首を出す前に
屈服せるうまい訂[#「訂」に「ママ」の注記]約だ、
我々は 見よ
外の強盗らは
この強盗をにらみながら、
ピストルを持ち上げて
その家の窓へか
門へかと
忍び込まうとするのだ。
[#ここで字下げ終わり]
小熊(6)[#「(6)」は縦中横]解放されたところ
[#ここから3字下げ]
そこには何の
戸締りもない、
自由よ
門よ、
柔軟な開閉よ
そこへの侵入者は呪はれる
そこからの進発者は
にぎやかに送別される、
[#ここで字下げ終わり]
雷(7)[#「(7)」は縦中横] 静かに 静かに
[#ここから3字下げ]
豚のやうに
馴良[#「馴良」に「ママ」の注記]であれ
こんな教訓を
頷づく者が多い
だけど我々は
聴かない、そして
抗議する
更に反対な行動が[#「が」に「ママ」の注記]する
我々は四足の獣でもなければ
両足の禽でもないだから
又、我々は
時代の尖端に
最も強い闘ひと
最も大きな創造を
自任する者を
示さねばならぬ。
[#ここで字下げ終わり]
小熊(8)[#「(8)」は縦中横]人間の行ひ為すことの
[#ここから3字下げ]
一切を肯定しようとする
恐ろしい考へ方のために
われわれは敵に
奇襲される
そして時には敗北する
ただそれを悔いないだけだ、
幾度も襲はれ
幾度も敗れ、幾度も勝つ、
この繰り返しの敢行よ、
なぜ後悔しないか、
それは新しい道徳のために
奉仕することができるためだ、
古い道徳に
新しい道徳を対比せよ。
[#ここで字下げ終わり]
作品第三番 九月二日
雷(1)[#「(1)」は縦中横] 精神の圧迫されることは
[#ここから3字下げ]
肉体の笞撻[#「撻」に「ママ」の注記]されるよりも
苦しみを私はよく感ずる
だが、私は屈服の奴隷ではない
若し異郷に客死せねば
或ひは旅嚢を背負つて
どこへも渡つて行かれるならば
行動の自由によつて
種種の太鼓を敲く、
その太鼓の音に
数知れず群衆の
吶喊を昂揚させる。
若しも行動の自由を
奪はれたなら
歯切に拳固で
最後の決闘をやる。
[#ここで字下げ終わり]
小熊(2)[#「(2)」は縦中横]太鼓の打撃の快感よ、
[#ここから3字下げ]
打ち、打つ、
我々のありあはせの心臓へ、
我々のもちあはせの
イデオロギーといふ鞭を加へる、
尊大ではなく自信をもつて卑俗ではなく
普遍化された
真実の打楽器さ、
とほく歴史の空間をかけまはる
われわれの行動の時間化よ、
たたかひの速度よ
[#ここで字下げ終わり]
雷(3)[#「(3)」は縦中横] 生命のレールをはかつてはし[#「し」に「ママ」の注記]ない
[#ここから3字下げ]
だけど一秒の生命力を
流線型以上のスピードで
人間の広幅にひろげて発揮したい
君よ 君の馬を
絶えず飛び駈けつつ
私も飛行機を駕御しようとするのだ。
しかし忘れてはいけぬ
君の大刀と
私の機関銃を
用意することをこそ!
[#ここで字下げ終わり]
小熊(4)[#「(4)」は縦中横]客死か旅かといふ
[#ここから3字下げ]
君の決意のために祝盃をあげる
異邦人たちの精神は
寄り集まつて策謀してゐる、
もつとも夢多い東洋の
樹木の下にあつて
現実的な花を論じ
はげしい結実を論ずる
反逆の旅嚢は肥える許りだ、
転々山をのぼり、谷を下る
村落の上と、都会の上と
軌道を行く太陽と同様に
はげしい旅愁《ノスタルジア》を味つてゐる
精神や肉体の笞刑は
歴史と共に若者達の
貧しい生活の上に加へられてた、
[#ここで字下げ終わり]
雷(5)[#「(5)」は縦中横] 神よ鬼よ
[#ここから3字下げ]
お前達の実体の存在を
われわれは否定する
我々は無神論者であり
又唯物論者である
然るにおまへ達が
人間の霊魂を統制する
一種の工具になされることを
歴史的な怪物として知られる、
そして科学によつて、
それにひかれる観念を打破しようと
人間の霊魂を
迷信的幻想から
引き出して
現実的理想へ
押し進ませようと
保証がある手段で努力する。
[#ここで字下げ終わり]
小熊(6)[#「(6)」は縦中横]人間の思惟の世界での
[#ここから3字下げ]
可能なことは
すべて人間の手で
可能化されなければならない、
真理を信奉するものに栄誉あれ、
現実を愛する現実主義者よ、
土壌のために春は訪れた、
春のために河は、水は、流れた
理想の船の弛ゆみなく
海へ至る路よ、
喧騒をも擾騒をも怖れない
[#ここで字下げ終わり]
雷(7)[#「(7)」は縦中横] サイレンを吹け
[#ここから3字下げ]
唾沫を飛ばせ
勇しくて
整然たる歩伐[#「伐」に「ママ」の注記]で出発し
驚かす行動のシグナルを示す、
又、あらゆる同伴者を動員して
戦線を固める
プロレタリア詩人よ
わが詩の行路を
ひらかせ!
[#ここで字下げ終わり]
小熊(8)[#「(8)」は縦中横]妖怪的な強がりの宣言を避けて
[#ここから3字下げ]
もつとも具体的な
行為の詩を書かう
豊饒な思想の収穫場に
いまわれ/\は働いてゐる
怖れるな、われらの我儘者よ、
大胆不敵な行為の自由を
やつてのけよ、
整然は愛すべきで、
足なみを揃へよ、
そしてあくまで宣伝的であれ、
[#ここで字下げ終わり]
作品第四番 九月二日
雷(1)[#「(1)」は縦中横] 我々はいらない
[#ここから3字下げ]
割引的な文学賞金を。
そしてあいつも
我々に送つて呉れぬ
されど我々の作品には
金銭で買はれぬ程の
価値がある
我々の名誉も
万千の大衆に
定評されるだらう
我々は若し犬になつたら
しかもよく吠えるを[#「を」に「ママ」の注記]したら
少くとも空腹にならないだらう
犬になりたいものよ
まづ尾の払ひ捲きを
ならはねばならぬ
だが、厄介であるのは
主人の運命が
行詰りにつく[#「く」に「ママ」の注記]なんだ。
[#ここで字下げ終わり]
小熊(3)[#「(3)」は縦中横][#「(3)[#「(3)」は縦中横]」はママ]資本の取引のやうに
[#ここから3字下げ]
手軽にぶべつ的に
我々の思想は彼等に受け渡されない
文学への賞金とは
いつたい何なのか?
たたかひの文学に
生命をかけて賞金をもらふとは
あまりに騎士は
馬のうへでふざけすぎる
民衆を馬券買ひの
心理に迎をやるやうに
文芸賞へ文士と民衆の関心を向けるか
あいつ恍[#「恍」に「ママ」の注記]かつな奴、
[#ここで字下げ終わり]
雷(3)[#「(3)」は縦中横] 今、大きかつた者に[#「に」に「ママ」の注記]
[#ここから3字下げ]
だん/\小さくなつて来る
老いぼれた支那には
孔子が却[#「却」に「ママ」の注記]つて
二千余年を経た墓穴から
起されて引つ張は[#「は」に「ママ」の注記]れて
とぼ/\と出て来るんだ
そして香檳酒《シァンビンジュ》を飲んで
見せびらかして
廻りに[#「に」に「ママ」の注記]歩いてゐる
しかもどの学校へも這入る
学生様につづ[#「づ」に「ママ」の注記]ましく向つて
礼儀・道徳・忠孝……を教へて
国を救へば書経を読むべきを講ずる
居眠りに[#「に」に「ママ」の注記]する学生らの眼を
打ちひろげんとするのか
或ひはマルクスを逐ひ出さうとするのか
臭い屁を放ちつつ。
[#ここで字下げ終わり]
小熊(4)[#「(4)」は縦中横]君よ、君は支那の睡眠性脳膜炎を歌ふさ、
[#ここから3字下げ]
君のところの学生は
失ふべきものの中にあつて
過[#「過」に「ママ」の注記]速度的に失つてゐる
あらゆる古代支那の思想も文化も、
それは悲しむどころか爆竹ものだ、
そして月といりかはりに
太陽がのぼつてくるさ、
新しい支那は
世界的規模をもつた思想の卵を抱いてゐる
そして孵化してゐるのだ、
[#ここで字下げ終わり]
雷(5)[#「(5)」は縦中横] 君よ駿馬の持主
[#ここから3字下げ]
私に活力をつけて
生命の発揮[#「揮」に「ママ」の注記]油を注ぐ
君は若し
かなた大陸に
駈け廻つたら
そこの空に
聳え上がる山山の峰が
顫へて崩れら[#「ら」に「ママ」の注記]れるかも知れん
いや、しめやかな詩壇の沙漠に
夏の雷を呼び起すだらう、
だが今我
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