と女といふ性の区別を与へたのだらう、
一つの谷を降りて行きます、
この谷は二つのむかひ合つた
側面をもつてゐる、
一つは男の性の側面、
一つは女の性の側面です。
二つの側面の間を清麗な水が流れてゐる、
男は己れの側面を降りてゆき
そして底もしれないふかさに悩みくるしむ、
相会ふことを追求するのです、
男も女も呼びあつてゐる、
たがひに声はとゞき、
意志は伝達する、
たゞそれだけです、
永遠のへだたりをもつてゐる男と女とが
思想のこと、経済上のことを
語りあつてゐることを
谷やせゝらぎが嘲笑してゐるのです。

     4

然し私は信じたい、
谷の空間をとびこえて、
完全にあなたを、あらゆる婦人を
理解したり、愛したりできると、
――さあ、貴方は男のくせに
[#ここから2字下げ]
そんなに感情的であつてはいけません、
何ごとも理性ですよ、
理性ですよ。
[#ここで字下げ終わり]
帰り際に玄関で私にむかつて、
あなたは男性的に拳をあげて
私の男を勇気づけてくれました、
私の感情は軽蔑されました
あなたは理性を主張しました、
私はそれを感謝します。
だが問題は残つてゐるのです。

    
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