リと切れたさ、
ゆらい読者といふものは
惨酷なものさ、
君が宿命論を
卒業するのを内心喜ばないのだ、
今度は君はほんとうに
シャバにあつて
心の牢獄に入る番だ、


二人の感傷家に
 ――森山啓と中野重治に与ふ――

センチメンタリスト森山啓よ
自分の弟の死を
文章で広告してあるくな
肉親の君より他人の僕の方がはるかに
君の弟を愛してゐたが
一言も文章を書かなかつた
――などといつたら君は驚ろいて
気絶しさうだらう、
愛とは結局理解のことさ、
君の良い養素をみんな
君の弟がさらつて
あの世へ行つてしまつたよ、
のこつたカスは君そのものさ、
センチメンタリスト中野重治よ、
君の思想は
繊維《センイ》だけでできてゐるのではあるまいか、
脂肪や肉をどこへ落してきた
刑務所の便器の中へ
をとしてきたのではあるまい
監房で君は何をしてきた
看守に反抗はしてきただらうが
思策はして来なかつただらう、
詩人でありたいなら
古い感傷から
新しい情緒にかはりたまへ
肉親の君より他人の僕が
君の妹を愛してゐる
などといつたら
君は驚ろいて
気絶しさうだらう
愛とは結局理解のことさ
君の良い養素をみんな
君の妹がもつてゐるよ、
のこつたカスは君そのものさ、


底本:「新版・小熊秀雄全集第3巻」創樹社
   1991(平成3)年2月10日第1刷
入力:八巻美恵
校正:浜野智
1999年6月18日公開
2000年11月13日修正
青空文庫作成ファイル:
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