と語ることは知つてゐるが
直さいに語る努力をしない、
生活で忙がしい
せつかちな民衆の味方ではないが、
遺産で喰つてゐる
悠々たる文学青年の
味方ではある、
中野重治へ
なんと近頃の呼吸づかひの荒いことよ、
狼の荒さでなく
瀕死者の荒さをもつて
不安定な悪態を吐く
君は毒舌家でなく
諷刺家となり給へ
但し君のこれまでの思想を
観念主義の粒と
極左主義の骨とを
一度乳鉢で
丁寧に磨つてから
この情緒的なものを
諷刺に有効に使ふのだ、
どのやうに見かけの論争が激しくても
君のもつてゐる思想は
一つの焦点もつくらない
こはれたプリズムを
太陽の光線が避けるやうに
君の感情と思想が
四分五裂の屈折ある文章をかゝせる
君が敵とたたかふことは賛成だが
熊手でゴミを掻きよせるやうに
徒に我々の陣営へ
きたないものを近づけて混乱させる
君はどのやうな戦術家であるのか
島木健作について
彼が裟婆で原稿を売り廻つてゐるときにも
まだ牢獄の中にゐるときのやうに
苦しんでゐる
宿命論者よ、
その良心を人々はかつた、
ジャナリズムは歓迎したし
原稿は売れたさ、
だが牢獄の追憶が尽きたとき
題材がプツ
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