小熊秀雄全集−11
詩集(10 )風物詩篇
小熊秀雄


東京風物伝

東京駅

東京駅は
ウハバミの
燃える舌で
市民の
生活を呑吐する
玄関口、
朝は遅刻を怖れて
階段を一足とび
夕は
疲れて生気なく
沈黙の省電に乗る
所詮、悪蛇の毒気に触れて
人々の
痲痺は
不感症なり。


隅田河

隅田河
河上より水は
河下に流るゝなり
天の摂理に従へば
古き水は
新しき水に
押しながされて
海に入るなり
一銭蒸気五銭となり
つひに争議も起るなり
あゝ、忙しき市民のためには
渡るに橋は長すぎ
せつかちな船頭にとつては
水の流れは悠々すぎる、


丸の内

『戦争に非ず事変と称す』と
ラヂオは放送する
人間に非ず人と称すか
あゝ、丸の内は
建物に非ずして資本と称すか、
こゝに生活するもの
すべて社員なり
上級を除けば
すべて下級社員なり。


浅草

汝 観音様よ、
浅草の管理人よ、
君は鳩には豆を我等には自由を――
腹ふくるゝまで与へ給へ、
彼は他人の投げた
お賽銭で拝んでゐた
かゝる貧乏にして
チャッカリとした民衆に
御利益を与へ給へ


地下鉄

昼でも暗い中を
走らねばならない
お前不
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