病める庭
点々として煙のたちあがる穴、
私はこゝから哀悼する
火星が救ひに来る日まで
かくしていたるところの城壁は崩れ
自由の路は荒廃した、
たゞ読経者の職業的な
声が遠くから聞えてきた、
こゝで悔なく人々は戦つた
戦ふことに依つてすべてが終るかのやうに
狂気と酩酊とで
太陽が乱視の光線を放ち
地を掃きまはつた
黒い影が壁に殺到し
一方の影が一方の影を壁の後につき落した
瞬間に行はれた遊びは
沈痛な歌をもつて始まり
鈍重な叫びをもつて終りをつげた、
さらに歌は始まり、
叫びはつづく、
次の壁にむかつて鉄は祈りの声をあげ
火と呪ひの眼をしばたたく
心の城崩れるとき
一時に天は明るくなり
地の明るさの中に引きこまれる。
夜の床の歌
われらの希望は微塵に打砕かれた
太陽、もうお前も信じられない、
月、お前は雲の間を軽忽に走り去る。
すべてのものは狂犬の唾液に
ひたされたパンを喰ふ、
胸騒ぎは静まらない、
強い酒のためにも酔はない、
あゝ、彼等は立派な歴史をつくるために
白い紙の上に朱をもつて乱暴に書きなぐる、
数千年後の物語りの中の
一人物として私は棺に押し込められる
私はしかしそこで
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