誰にも頼まれもしないのに
夜つぴて眼をあけて
くるしんでゐるのだ、
可哀さうだとは思はないか、
歴史の発展の途上に、
眠れない男たちを。
――可哀さうだと思はない、
それは御随意だ、
おお、鶏どもよ、
お前ももう起きたのか、
羽虫を羽からほふり落して、
早く歩きまはり
コツコツと足を鳴らして
暁から活動し給へ、
塔を守る鐘楼守のやうに
牝鶏をかばふ雄鶏のやうに
愛するもののためには
献身と、奉仕が美しい
わたしの鐘楼守よ、
塔をとりかへておくれ
塔よ、塔よ、塔よ、
わたしの愛する牝鶏よ、
巣をとりかへておくれ、
セトモノの卵を、いつまでも温めてゐるのか、
セトの卵は永遠に孵らない、
めんどりよ、
君は自分の腹を
新しく痛めるのだ。


私と風との道づれの歌

強い風は山へ真正面にぶつかつた
風は数千万の草笛をふいた、
騒いだ、草むらの
草笛たち草たち
そして風は谷間を迂廻していつた
依然として花をふるはせ
草笛を鳴らしながら、
無数の谷間をとほり
いま風とたたかつてゐる、
そしてそれらのさまざまの
谿谷をとほつて
その谷の放射状に集る海のところで
風は高く激しく再び鳴りだすだらう、

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