であらうか
愛といふ言葉も使ひ古された
憎しみといふ言葉も使ひ忘れた
生きてゐるといふことも
死んでゆくといふことも忘れた。
ただ人はゆるやかな雲の下で
はげしく生活し狂ひまはつてゐる。
私の詩人だけは
夜、眠る権利をもつてはいけない
不当な幸福を求めてはならないのだ
夜は呪ひ、昼は笑ふのだ
カラカラと鳴るソバカラの
耳鳴りをきゝながら
あゝまだ戦争は野原でも生活の中でも
つづいてゐるのだと思ふ。
そのことは怖れない
人民にとつて「時間」は味方だから
人と時とはすべてを解決するのだらう。
霧の夜
濃い霧は
私をうつとりとさせてしまつた
一間先も見えない
そこで私は一歩一歩前へあるいた
すこしづつ前方が見えてきて
あつちこつちで
ざわざわと人の立ち騒ぐ気配がした
しかし霧は濃く
人の姿はなかなか現はれない
なんと寂しいことだらう
しだいに襲つてきた霧は
すつかりと私をとりかこんで
わづかの空間をのこしたきり
私は正しくものごとを考へ
正しくものを視透す場所を
誰か他の者の手によつて
計画的にせばめられてゆくとしたら
それは恐ろしいことにちがひない
人々と心の連絡も切れてしまひ
そ
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