茜色のつよい喜びを感じてゐる
愛する人よ
春の聡明な色彩は日増しに美しく
生活の谷間からのぼつてくる。
苦しみをかくまでにも秩序立て
悩み苦しむ方法を
私達はどこから学んできたのだらう
過渡期の愛の新しい苦しみが
前方に私達を待つてゐるが
その新しい苦しみの性質を
生活の途上で我々は知りつくす
愛の大きな優位性をもつだらう。
馬の胴体の中で考へてゐたい
おゝ私のふるさとの馬よ
お前の傍のゆりかごの中で
私は言葉を覚えた
すべての村民と同じだけの言葉を
村をでゝきて、私は詩人になつた
ところで言葉が、たくさん必要となつた
人民の言ひ現はせない
言葉をたくさん、たくさん知つて
人民の意志の代弁者たらんとした
のろのろとした戦車のやうな言葉から
すばらしい稲妻のやうな言葉まで
言葉の自由は私のものだ
誰の所有《もの》でもない
突然大泥棒奴に、
――静かにしろ
声を立てるな――
と私は鼻先に短刀をつきつけられた、
かつてあのやうに強く語つた私が
勇敢と力とを失つて
しだいに沈黙勝にならうとしてゐる
私は生れながらの唖でなかつたのを
むしろ不幸に思ひだした
もう人間の姿も嫌になつた
ふるさとの馬よ
お前の胴体の中で
じつと考へこんでゐたくなつたよ
『自由』といふたつた二語も
満足にしやべらして貰へない位なら
凍つた夜、
馬よ、お前のやうに
鼻から白い呼吸を吐きに
わたしは寒い郷里にかへりたくなつたよ
銀河
私は窓をひらいて夜の空をみた
そして心に叫んだ
――おゝ空よ私を救へよ、と
とほくの銀河の美しい光沢よ
私はお前に乗りたい
心の重い、にぶい、動きのとれない
救ひのない悲しい心をお前に乗せたい
きのふお前は私の願ひをきいてくれた
きのふお前は私のところに
光りをとゞけてくれた
夜であつた
私はお前の光りにふれた
なんてお前の手は柔かかつたのだらう
星の光り
ただお前は私のところに届いただけで
高いところまでは引きあげてはくれない、
私の心はお前とつれだつてならんだが
なんと鉛より重い肉体の重さは地を離れず
叫ぶ苦痛は心ではなかつた
心におき忘れられた
肉体の絶え入るやうな哀訴であつた
銀河よ、
ついにお前は私を
とほくのせ去つてはくれないのか
かなしい自由は残されてゐる
たつた一つの地上の自由であるのか
他にもつと果され得る願ひや
幸福の生活があるのか
自
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