マスクをかけた歌うたひ
きゝとりがたいことを
ゴモゴモ口の中でいふ
一年にかぞへる位おつくりになる
つまり小鳥のやうに
ちよつぴり召しあがつて
ちよつぴりお垂しになる
僕たちは働く詩人だ
たくさん喰つて
太い糞をするよ
君は――男のくせに
女形のやうに容子ぶつて
原稿紙にむかふ
月経(つきのもの)でも
あつたやうに
二十八日目に
一篇おつくりになる
苦痛は愛されてゐる
彼等はほんとうに
人生を辛いと思つてゐるのか、
深刻らしい顔をしてゐるが、
みたまへ彼等はまだ靴を履いてあるいてゐる
ポーランドの子供ははだしで逃げたのに――、
しかも彼等の靴は鳴るのだ
そして足はこの皮をもつて保護されてゐる
頭を見給へ
帽子がのつてゐる
胸を見給へ
ヒラヒラするネクタイが
舌のやうに風を舐めてゐる
何にもかにも彼等には残つてゐる
そして苦痛だと叫ぶ権利も残つてゐる、
すべてを失つたものだけが
現実が辛いとか
人生が苦痛だとか言へるのだ、
しかし彼等はすべてを所有してゐる
彼等の周囲には
怪しげな苦痛がのこつてゐて
そつと彼が腰掛けると
下から忍びあがつて何時の間にか
膝の上にあがつて主人に可愛がられるのだ
彼等の苦痛とは
猫よりももつと静かで
狡猾と温かい膝の上で
愛されてゐていい代物だ
しかも猫のやうに彼等の苦痛は表裏がある
生活の上では享楽的で、
文章や言葉の上でだけ人生の苦痛を説く
何が辛いのだ
何が苦しいのだ
すべての苦痛はよき酔ひである
失はれてゆく血を自覚したものだけが
真の苦痛を叫び
それを訴へる。
義足のやうな恋
愛はどんなにあわただしく
義足で駈けるやうに
ちぐはぐでも
調和された長さで走るやうに
動揺の中を駈けぬけるものだ
愛とは
若い時代、
若い年齢、
はかない花弁の散る一瞬間のやうに
空漠とした中に
茎だけが残されるやうなものであつても
青春の通過しなければならない義務を
果すやうな勇ましさでたちむかふ
なんといふおかしなことだ、
深刻に語ることの、
意義のふかさは
愛の言葉の中で
証明される最大のものだから
じぐざぐと走る義足のやうな恋。
都会の歩道
とびとびに赤いボタンを
ならべたやうな花、
緑色の外套を
ひつかぶつたやうな野、
私の眼の底の
春の大地はなつかしい、
その思ひ出も
いまはきれぎれになつた、
都会の灰色の物蔭で
不良児
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