なたとわたしは列んで
大きな樹の幹にもたれかゝつて足をのばした、
私は生れて始めて
あんなに静かな休息のまどろみを
経験したことはなかつた
私はこの上もなく動乱的な愛を好みます、
こゝでは極端に静かな
幸福な時間を感じました、
私のうとうととした眠りは
全く純粋でした、
たたかひの中で素晴らしい静穏があることを
知つて私は驚ろくだけです、
静けさは愛すべきでせう、
死ぬことの無意味とたたかひながら、
生きてゆくことの憤りを
生活の激動のさなかで
どういふ形で表現したらいゝか、
わたしたちはそれを知つてゐる、
そしてその仕事のために
休息はない、
蝶々がとんでゐるのを見て驚ろいたり、
小さな木の実の降る中で
愛しあつたりすることを
私は全く忘却してゐた、
なんて愛は敏感なものだらう、
忘れ、見落してゐたことをみんな思ひ起す、
愛はそして精神の休息であることを証拠立てる、
明日私は勇気をもつて
強い衝動をもつて
争ふべきものと争ふことを約束するだらう。
夕星の歌
夜の空は黒に近い紺の色
地上の茂みは暗かつた、
空の下に私達は立つて
そして誰に遠慮もなく抱擁する
一瞬間の陶酔のなかにも
完全な幸福さがなければならぬ、
たたかひよし、言葉をかへれば
これは幸福の代名詞だ
星のまたたきも甘い、
その光りは凄惨なほどの美しさをもつてゐる、
何に見とれて私たちは夕星の下に
立つてゐるのか、
女よ、
私の体からそつと離れてくれ、
また近よつて抱擁もせよ、
くちづけの甘さを
永遠に我々は忘れない、
苦痛と、悔恨と、憤怒とを忘れないやうに、
幸福の根元を早く見究めよう、
生活の疲れ
生活になぶられてゐる肉体
翻弄されてゐる精神の敵がどこにあるかを見究めよう、
照れよ、
やさしい夕星よ、
すべて山の上に、
かすかな絶え難いほど細かい
繊弱な光が雨のやうにふつてゐる
わたしたちは抱擁のさなかに
いかに強くはげしく
その光りの本質的な強大さを知つただらう、
空の光りもののために
地上のすべての光りものである若者たちは、
武器を片手にして愛を語るほど強くなつてくれよ、
日本の若いコサック兵よ、
すべての自由の夕星の下にあつて愛を語らう
両性の上の貪慾者
男としての私の誇りは
女の感情のデリカシーを
どんな際涯までも追つてゆく求めてゆく力
沖へとほく去つてゆく
海鳥のやうに
女のデリ
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