蔵はその時
ネバ河から通ずる
不思議な奥穴を這つてゐた
全く偶然的に――そして予め設計師に
設計させたもののやうに
おあつらひ向きにクレムリン城廓に通じてゐた
間道は次第に細くなり
四つん這の行進が終つたとき
こゝで人間的にウーンと
背伸びをして立ちあがつた
こゝで人間的な意志の強さを
発揮する番になつた
壁は五寸程のすき間よりない
左右の足の関節を巧みに動かして
クレムリン宮の外廊をまはりだすと
なんと運命は小癪な
喜びをもたらすものだらう、
ひよつこりと会議室の地下に出た、
そつと階段をあがつて
会議室の中をのぞくと
そこの大テーブルの上には
白い花に紅をさしたやうに
小さな簇生的な花は花瓶にさゝれ、
その花の名はわからない、
温室そだちの季節外れの花に違ひない
その花は円卓の上に
お尻をもたげたやうに盛花され
周囲の窓には
垂れ下つたグリーン色の
地厚のカーテンは重さうであつた、
そのとき会議室の一隅のドアは排され
大臣達は一人づゝそのドアの中から
現はれて座についた
そこでロシアの忍術使ひは
そつと階段を下りて地下室にもぐりこむ
そして彼は胸を叩く、踊れ心臓と、
脳のシワもア
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