でゝ
夜のネオンサインの上に
ちらばり光る星をみると
「託児所をつくれ!」と絶叫し
かたはらの電信柱にもたれかゝつてゲーといふ。


諷刺大学生

ある夜一人の見も知らぬ学生が訪ねて来た、
洋服の袖口のところが破れてゐて
小さな穴から下着の縞模様をのぞかせてゐた、
学生は――諷刺文学万歳!と叫んで
そして私に握手を求めた
――曙ですよ、
  あなたのお仕事の性質は、
  日本に諷刺文学が
  とにかく真実に起つたといふことは
  決定的に我々の勝です、
彼はかう言つて沈黙した、
ところで我々はそれから、
ぺちやくちやしやべつた揚句は
――諷刺作家は
  芸術上の暗殺者で
  真に洗練された文学的技術者でなければならぬ、
といふ結論に二人は達した、
――ナロードニキ達は、
とまたしても学生は
破れた洋服の袖口をふりまはす、
何故この学生が古臭いナロードニキに
惚れこんでゐるか
それには理由がある
彼は来年大学を卒業する
彼の卒業論文は
『ナロードニキ主義の杜会史的研究』といふのだ、
あまり香ばしい論文の題材ではなかつた
あんな国に材料を求めるのは
教授会議では喜ばない筈だ。
   ×

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