こんでゐる。
七
実は私も彼女が嫌ひではない
もつと正確に言へば、
嫌ひな部類に属する女性ではない
しかし私は少しばかり時間が遅れたやうだ、
切符売場にはずらりと
男達の列がならぶとき
列の後で私は待つてゐる根気がない、
彼女を中心にして
座席争ひで男達は戦はねばなるまい、
憂鬱な話だ
私は男達の女争ひの
観戦武官に如くものはなからう。
八
薄つぺらな詩集を出版した位で
特別に美しくもない彼女が
何故こんなに詩人達に騒がれるのだらう、
彼女が奇蹟を行ふ女のやうに
特別な雰囲気を身につけて
突然に現はれたからだ、
そこには時代的な理由も大いにある、
彼女は現はれ、彼女を中心にして
展開された恋の闘ひの
勝負けのタイプが
恋愛合戦に加つた詩人の運命を
急速に変化させてしまつた、
彼女は詩人達の運命を
決めるため忽然と現はれた不思議な女であつた、
九
恋の観戦武官である私は
当時手に負へない象徴派の詩人であつた、
彼女の出現頃から急激に思想的転廻をして
コンミニスト詩人の陣営に入つたのだ、
思想の三角洲の真中に吉田りん子が立つてゐる
――あなたは、あちら
――君
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