陽は、
雀さへ、太陽がのぼると、
チチと鳴いてのきばで
ひとときの別れを
嘴を軽くつつきあつて
男の雀は女の羽を離れて
男は生活のためにとんでゆくではないか、
山寺の鐘がゴーンーンと鳴れば
明け方の障子紙に砂の微粒をうちかけてすぎたやうな
サーッといふ音がする
それは松の木をゆする[#底本「ゆる」を訂正]
爽快な風の音、
そして『離れ難たき肌と肌』と
東洋の古来の俗謡そのまゝ
歴史を超えて夜から暁まで
情痴の姿はくりかへされる、
『情愛の進歩性はないか、
 愛は絶望で愛は反覆であるか』
悪魔は長い生活の間
そのことを思索してきた、
悪魔の精神の逍遙は、ながくつゞいた
曾て可憐な若者の
なだらかな感情へは
いまは無数のヒビ割れができた、
結婚といふものは、思ひがけない、
プログラムをひろげるものであつた、
未婚の男女が
予期しないやうな筋書が開かれる
夫婦の生活の泡立ちは
若さに痛々しい、
離れ合はうとしなかつたのか、
逢ふ時間より、逢はない時間を
たのしむ、
たがひの生活に空間をつくり
空間を楽しむ術を知りだす、
空間のみがたがひの
自由の世界、哀しい、あはれな充実の世界、
サラリーマ
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