いて寝ずの番
十二時を廻ればうとうと
三時をすぎれば眠くなく
目をつぶればねむつた証拠、
目をひらいてゐて
心が眠る工夫はないか、
どこの小穴から泥棒が
覗いてゐぬともかぎらない、
二日三晩婆さんはカッと大きな眼を
みひらいて天井をみたきり眠らない
嫁が不思議に思つて婆さんの顔をのぞいた、
――まあ、まあ、どうしたのです
  上まぶたと、下まぶたとに
  マッチの棒で
  突つかい棒をしたりしてお婆さん、
――いや、何、構はんで下され
  としをとると
  眼にも杖がいりますぢや
と婆さんはごまかした、
この紙幣をかくす工夫もばれたから次の工夫
進退極まつた窮余の一策
まずこれならば大丈夫、
札を細くくるくる巻いて肛門へ!
札も身のうちになれば眠るだらう、
夜中にお婆さんは夢うつつに
カワヤに入つてハッと思つた、
――さあ、大変じや、
  皆んなきてくれや札を落した、
  夜があけたら
  早う、おわい屋を呼んでこい
金銭に就いての醜悪さは
まあ、ざつとかいてもこんなもの
突つこんで描写してゐたら、
謹厳な読者に顔をそむかせよう、
手押車に紙幣束を
うづ高く積んだのを
ゴロゴロと銀行の
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