、
己れも橇にまたがつた。
皮の鞭をピューと空にふると
犬達は一斉にひきだした、
犬は矢のやうに
海岸に添つて走りだした、
トウ、トウ、トウ、トウと絶えず叫び
アイヌは橇の上で
犬達を適宜に激励し、勇気づけ、
橇は十里の路を隣り村まで
負傷者の手当と救援を求めるためにとんでゆく、
二度三度この軽快な橇は
雪の上に転覆した、
すると犬達はピタリと停まる、
先頭犬はたえず神経を昂揚させ
驚ろくべき神経の緻密さを示しながら
主人の意志を正しく
犬たちに伝へる、
アイヌは犬の訓練の
技術のありつたけを傾け
負傷者の苦悶の声をのせて
橇は海伝ひに雪明りの路を飛んでゆく。
底本:「新版・小熊秀雄全集第3巻」創樹社
1991(平成3)年2月10日第1刷
入力:八巻美恵
校正:浜野智
1998年8月10日公開
1999年8月28日修正
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