た
黒い樺太犬がとびだしてきた、
権太郎の背にとびかゝつた
権太郎はおゝと叫んで
――太郎、みんな呼んでこい
馬鹿野郎奴、
とその犬を吐鳴りつけると
犬は人間のやうに彼の言葉をききわけ
矢のやうに去つていつた、
間もなく続々と犬達は集つてきた、
集つてきたのではない、
太郎が狩り出してきたのであつた、
凶暴な眼をした
この先頭犬、太郎は
十三頭の犬を力強く牽制してゐた、
そして巧みに激しく仲間に咆え、
雪崩の恐怖から
遠く逃げようとする卑怯な
犬の脚を背後から噛み
これらの犬達を
先頭犬は一個所に集めてしまつた、
らんらんと輝く眼をした太郎は
これらの犬から数歩離れたところに身構へし
脱落者をいつでも噛み殺さうとする
気配を絶えず示し
――太郎、橇つけるんだ
みんなならばせろテ、
と叫ぶと太郎は
犬達をいつたん散らばし
咆え、叫び、噛み、威嚇して、
十二頭の犬を二列にならばした。
24
権太郎はその時倒れた犬小屋から
橇を曳きだしてきて
山林官の体をその上に横たへ、
犬たちの首輪を海豹製の
引綱にそれぞれつなぎ
すべての準備が終つたとき
先頭犬太郎を最後に綱につけ
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