て笑つた
権太郎は人々の軽蔑の笑ひを聴くと
一層悲しげな声をし
両手をもつて幅広い胸を抱えるやうにし、
その胸を天にまで突きあげようとする
はげしい、だが空しい意志を示しながら
――シャモ、おら、社会民衆党さ入つたテ、
と同じことを何時までもくどくどと繰り返し
人々が全く笑はなくなると
権太郎はフイと小屋を立ち去つて行つた。


    5

人々はアイヌの後姿を見送つた、
滅びゆく民族の影は一つではなく
いくつも陰影が重なりあつてみえるやうに、
彼等の肩や骨格がたくましいのに
妙にその後姿がしよんぼりとしてみえる
権太郎は戸外にでゝ
雪の中をとぼとぼあるく
小屋が見えたとき彼はピュと口笛を吹いた、
すると小屋の板戸は激しく
バタンと音して開き
中から一団の生物の固まりがとびだし
疾風のやうに路をとんでくる、
十数匹の犬の群があつた、
彼等はなんと走ることが巧いのだらう、
それは走つてゐるのか踊つてゐるのか判らない、
それほど犬達は美しく身をくねらし、
かぎりない跳躍のさまざまな形をみせて、
権太郎へ近づくと
主人に甘えながらクンクンと叫び
犬たちは崖へ駈けのぼる時のやうなはげしさで

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