に支へをつくる、
子供の習字の紙を小さく切つて、
部屋や、物置小屋の窓といふ窓へ目貼りをして
風と雪との侵入に備へた。
2
これらの冬の準備は、北国の人々の敏感さで、
金のある者は有るやうに、
金のないものは又無いやうに、
それぞれの予算の中で
非常な素早さをもつて手順よく行はれた、
全く貯へのない家では
河岸から板切れを何枚も
拾ひ集め、ムシロを集め
いらだちながらそれらの物を手当り次第に
釘をもつて家の周囲に打ちまくり、
林の木の葉の
最後の一枚が散りきつたと思ふときに
空は急に低くなつたやうだ、
そして周囲は急にシンとしづまつた。
その静けさは、長い時で三日、或は一日つづいた、
短いときはほんの数秒間、
不意に咽喉をしめつけられたやうに
村の人々が呼吸をとめた、
そのしづけさに耳を傾けて聴き入つた、
村の人々は立つたり坐つたり
家の戸口に出たり入つたり落着かない、
馬車挽はそはそはと幾度も
馬小屋の馬を用もないのに覗きにゆく、
この天地の静けさが極度に達したと思ふと、
海から、周囲の山蔭から、
数千の生き物が、手に手に
木の杖をもつて、コツコツと土を突いてやつてくる
前へ
次へ
全68ページ中47ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング