、
旦那も、よくよく考へての事だらう、
考へれば、少々俺たちも
心細くなつて来た、
縁起でもないことを考へさせられる、
俺達が溶けて無くなつてしまふといふ事をさ、
玄海灘に、
赤いやうな
黄色いやうな
大きな月が出て、
船の甲板を、てらてら照らし、
俺はしんみり東京の仲間の事を考へさせられた、
甲板の上で居眠りをしてゐるかと見ると、
八公の野郎、監督に殴られてから
すつかり、しよげ込んで、
奴はしきりに考へこんでゐやがつた、
あいつも俺と同じやうに
名誉も糞も、へつたくれも、
要らなくなつたんだらう、
すると、突然、海面に、おそろしい
大きなドブン、ザーといふ物の落ちた音がした、
見ると、早いもんだ、八公の野郎
もう、この世に、姿が見えねいや、
船の中の俺達は大騒ぎした、
八公の落ちた辺りを、
船がお愛そみたいに、二三度、
大きく廻つてポーと汽笛を鳴らし哀悼の意を表して
それきりさ、
俺達は船室に駈け降りて
奴の手廻りの物を引つ掻き廻して見ると
鼻紙に鉛筆で
八公の野郎カキオキを
ぬたくつてゐた読んで見るていと
『おゝ、ルンペン諸君、わしは、いささか代表
いたしまして、はい、左様
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