蔽の手段の一つ、
自殺とは大衆の現実への
もつとも消極的な方法による
もつとも積極的な抗議の仕方だから、
舞台の上で俳優が殺された、
田舎芝居では
赤い毛布をもつた男がでゝきて
すぐ毛布で死骸をかくして引つ込めてしまふ、
図々しいのは良心のない都会の芝居さ、
倒れた俳優の腹をたち割り、
そこから赤い真綿を一米突もひきだす、
観客は、生々しい死の姿を
いつまでも見せつけられて
――あゝ、可哀さうに、可哀さうに。
田舎の芝居にはユーモアがある、
倒れた役者は
舞台下から吹つこむ寒いすきま風に、
ぶるぶるつ、と身ぶるひしながら横になり
相棒の女形を下からみあげて
――なんて、あいつの脛は毛だらけだらうと
つぶやきながら眼をあけたり閉ぢたり、
退屈になると袂から
南京豆をつまみ出して、ボリボリ喰ふ
自分に都合の悪い死に方をした者は
直ぐ棺桶へ放りこむし
都合がよければ何時までも
毎日、毎日書きたてゝ
大衆に見せびらかしてをくジャアナリズム、
そいつをあやつる成り上り者、
彼等の社会政策は死者から始まる、
――生者に対する礼
おそらく、そんなものは遠い昔のことだらう。
ゴーゴリは死に際に言つた、梯子を梯子を――と
モオパッサンは言つた、暗い、暗い――と
バイロンは言つた、進め――進めと、
なんと三人共、
味のある遺言だらうね
諸君はこのうちの、どれが好きかね、
私は三つの内でバイロンの遺言が一番好きだ。
武藤山治は撃たれて倒れるとき叫んだ。
――火葬場問題だ、と
なんて慌てた政治家の遺言の通俗的なことよ。
将校は支那兵を撃つて
***身を支へながら絶叫した、
*****
*************
私はかうした人の心理が判らない
その時戦地には、こほろぎが
コロコロコロと鳴いてゐた
――謎か、若しくは
コホロギの鳴く音こそ、
疑惑に対する似合ひの答、と歌つた
ウヰ[ヰは小文字]リアム・ブレイクの詩の一章を思ひだす、
戦地の血のしたたり、
無念――とさけび倒れる人は
いづれも今は*****、
*****謎は、コホロギにきけ、
私の綱渡りは軽わざ小屋の大てつぺんから
観客が、アッと叫ぶ瞬間に墜ちる、
地面にはげしく、たたきつけられて、
私の頭の皮ははげ
むきだしのザクロのやうに赤い
夕刊ではかう書くだらう、
――軽わざ師某は
前夜少しく酒をのみすぎてゐたと。
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