ゆる本能的なものを利用するのだ、
私は単純で哲学的でないといふ、
私の哲学は――、
犬に喰はれてしまつた、
若し、私の哲学を
批評家よ、君は探し出したいならば、
脱糞するところまで、
犬のケツを尾いてあるいたらいゝ、
われらは単純で直裁な路を
虎視眈々と
ねらふ群集の一人として
光栄あるマークを胸につけてゐる、
あゝ、クン章よ、マークよ、
胸のものよ、
私は子供のやうにそれを誇つてゐる、
一日よ、
朝のすがすがしさと、
夕焼の美しさよ、
バイオリンと
セロの取つ組み合ひよ、
感動もつて私の一日は高鳴る
私は君達に合唱する
我儘と自由は
我等にとつて同意語であれ、
私の我儘の見本帳は
まだまだ薄い。


お前可愛い絶望よ

絶望よ、
お前が襲つてくるときは
実に美しい、夕陽のやうにきれいだ、
マリヤーピンの絵の色のやうに赤い、
激動を伴ふからお前は綺麗だ、
強烈だからお前は美しい、
すぐ死を考へることができるから嬉しい、
そして地球は広いから
絶望のために七転八倒して
くるしんでも私は邪魔にならないだらう、
絶望よ、お前はさまざまな姿で
私の処へ、毎日でも訪ねてきておくれ、
私は歓迎しよう、
私はお前が訪ねてくるたびに
死を考へ、生を考へ、
そして私はこの二つのことを
こころから歌ひつくして悔恨はない、
お前がやつてくると私は怒る、
そして敵といふものの正体をはつきり見る、
私の中の敵、
敵の中の私、
混んがらがつた敵味方の中から
絹の布をピリリと引きさくやうに
敵の部分を引きちぎることができる、
私は絶望を大変可愛がつてゐる人間だ、
龍よ、お前と私とは闘はう、
誰だ、
私と龍との間に
なまじつかな人間が仲裁に入るのは、
私はシヱ[#「ヱ」の小文字]クスピアの「リヤ王」のやうに
――龍と怒りの中に入るな、
と私のたたかひの本能に
水をさす者を罵しるだらう、
敵と私との間にゐるものは絶望よ、
お前はどんなに私をふるひたたせるだらう、
私の怒りは塩のやうに
ナメクジを溶かしてしまひたい、
私はリヤ王のやうに憤りしやべり、
画家ゴヤのやうに髪の毛を逆立てゝ
口から泡をふいて仕事をしたい、
絶望よ、
お前は可愛い奴だ、お前をヒシと
抱き緊めるとき
私の心臓は手マリのやうに弾んでくる、
不幸がこのやうに私を激させてゐる、
呼吸《いき》を吐くべきときに吸つたり、
吸ふべきときに、
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