和だ、
私はそれを求め、
達しられないために悩む、
はげしい嵐の中の立木が
堂々と風と闘ひ
みぶるひをしてゐるのを見るのは気持がよい
だが大きな岩石の蔭に
小さなスミレの花を発見することは
この上もなく悲しい、
巨大な機械の傍に
太い体の労働者が
突立つてゐるところをみると
なんといふ良い調和だらうと
私はヨダレを垂らしながら
いつも羨やむ、
立派な肉体や、強い意志や性格は
私にとつて良い嫉妬の対象である、
私は私なりにもつともピッタリとした
行動を求めてゐるのだが
ともすれば私の周囲の出来事の
大きな不調和な
矛盾の中にとびこんでしまひ
そしてあつちこつち小突き廻される、
単に威嚇的な身振りをして
己れの力を
敵の前で労費することは
私にとつてこの上もなく苦痛だ、
強がりや、こけをどかしの生活は
なんていやなことだらう、
驚嘆すべき力といふものは
いつも最も調和された
完成された形で現れるものだ、
だが――私は
強い石の傍《かたはら》の弱々しいスミレのやうに
「矛盾の美」をもつて、
「弱者の美」をもつて、
まだ他人を感動させようとしてゐる、
この二つのものは決して調和してゐない、

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