めよ
まつすぐに相手の眼をみて、
瞬間にして理解しろ、
峠の曲り角で
熊と人間がぱつたり逢つた
熊はそつぽを向いた、
人間もそつぽを向いた、
そして無事に行き違ひになることができた、
生物たちはそのやうに
たがひに眼を見合ふことを恐れる
君よ、そのやうに無事でありたいのか、
若し君の眼が熱した眼であれば、
私は君に倒されても悔いない、
私は一人の同志をスパイだと公言した、
私は熱した眼をもつて
無言で追求した、
私はあやまつてゐた、
彼は全く良い男であつた、
そのために私は何日苦しんだらう、
いまでもそのことを思へば
身体中の毛穴が
いちどに汗をかく、
一切の誤解は、生々しい眼をもつて
たがひに眼を見合はさないことから発する、
眼よ、階級的直情を自負してくれ、
私は君の直情に答へるに
どのやうな義務でも負ふだらう、
そのやうにして、そのやうにして、
そのやうにして、
あゝ、それはボウフラの
わいた眼でなく、
瑞々しい眼をもつて
数千、数万の眼をもつて
一つのものを溶かさう、
トンボは北へ、私は南へ
金とはいつたい何だらう、
私の少年はけげんであつた
ただそのもののために父と母と
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