護るために、
そして我々はたたかひに出てゆく、
どうして我々が、怒つてゐる牛と民衆の前で
八百長などやれるなどと思ふな
汗をながして精一杯にたたかふだけだ、
最も敵を猛らすものを
取り出すことに臆病であるな、
赤いマントを、ひいらり、ひいらり、飜へして肉迫するとき
いかに相手のするどい角を避けつゝ
相手を倒すことが
困難であり
技術が要るかを考へよ。
シェ[#「エ」は小さい「ヱ」]ストフ的麦酒
我々は軽蔑されよう、
我々は愚劣さを誇示しよう、
その時、我々はきつと陰気でなく、
機嫌よくそれをせよ、
我々は大胆不敵であるとき
何処からともなく
そよ/\と爽快な風がふいてくる、
心と体とがマリのやうに弾む
我々が道徳を無視する瞬間は
我々は古い船から
新しい船へ飛び移つたときだ、
岸から突き離してしまへ
古い道徳の入つた船を
河がどんなに美しく流れてゐようと、
彼等の眼には愚劣な姿態にみえるだらう、
我々は我々の神経の火花を
河の上の花火のやうに
火薬の爆発の瞬間のやうに
楽しまなければならない、
曖昧でないものはない
君はそれを信じなければいけない、
すべての物がまだ曖昧さにあると――、
もし君が曖昧さを真実憎むのであつたら、
そのものに就いて憎み燃え尽きることだ、
私はにくみつくし
そして更に綿々としてにくしみは続く
私は彼等を
驚ろかすに足りる妖怪と
なることをむしろ名誉とする、
私は首をはねられるときまで
歌ひつづけることができるらしい、
私は咽喉をうるほすとき
ビールの運命をしみじみと
考へてやつたことはない、
あるひはビールの奴は私の酔つぱらひを
笑つてゐるかもしれぬ、
だが私はいつも私のために
奴を平然と呑み下す
だが友は私のやうにしない
シェ[#「エ」は小さい「ヱ」]ストフ的に麦酒を悲しんでのむ、
それは彼にとつてはビールを
のんだことにならないだらう、
ビールを吐き出したことになるだらう、
私は対象を吸収するために
この世に生れてきたものだ、
私はかうした朗らかな方法をとる
無産者の健康法だと思つてゐる
だから私は真実に酔ひ
且つ健康でゐられるのだらう。
それぞれ役あり
大きな邸に十人の女中、
五人の書生、
書生さんの言ふことには
わしらの仕事は楽にちがひない、
一人の書生は
朝から縁側に腰かけて
手にした筆に水をひたしては
御主人の御愛玩の蘭の手入れ
一枚一枚その筆で葉を洗ふ仕事
それを毎日繰りかへす。
一人の女中さんは
お米を一粒づつ選む仕事
虫喰ひのないやう、
欠けたのがないやう、
完全な丸さのお米を選む、
一人の女中さんは、
その米を三時間
ザクリザクリと
玉のやうに磨きあげる仕事、
一人の女中さんは、
狆の散歩の御相手、
一人の書生さんは、
坊ちやまの御相手、
坊ちやまと言つても
当年二十三歳の坊ちやま、
この大坊ちやまが空気銃を手にして
大きなお庭を走りまはるとき
彼は空気銃の弾を
手の上にのせて尾いてあるく役、
それぞれ役あり、
すべて芽出たい
かなしい役ばかり。
真人間らしく
自由を愛する道化師が
笛をとられて
指をくはへてゐるわけにはゆかないから、
わたしは吹くのだ、口笛を、
ところ嫌はず吹きまくるのだ、
ピューと、口笛を、
安眠を妨害するのだ、
人間よ、
泣かずにゐて
泣いたツラをしてゐるお前、横着者よ、
怒らずにゐて
怒つたふりをしてゐるお前、卑怯者よ、
さあ、さあ始めたり、
私のピヱロのやうに
真に泣き、真に怒り、
真にあいつらに刃向つてみたまへ、
どいつも、こいつも
真人間らしく
気取つて洋服など
お可笑くて、着て歩かれるかつていふのだ、
身をくねらして悪態を吐き
咽喉を押へられたとき
すばらしい、時代のうめきと呟きを
皆様に御披露したい、
そして私は、自分の額を
自分の手で打ちながら
かういふ時代にふさはしく
まず額をうつ自己批判からの
演技にとりかゝります。
相撲協会
大きなものを形容して
国技館のやうだといふ
あそこはまつたく大きいからね
大きな円天井でがらんとしてゐる
力強いものを形容して
相撲の四本柱のやうだといふ
がつちり四つに組んだ向き合せよ
出羽ケ獄よ
泣くな
君にふさはしい棲み場所は
全く国技館よりないと
泣く程思ひ込んでゐるとは
無理もないことだ
すべての移り気の多い
観客の中にあつて私は唯一の
君の支持者でありフワ[#「ワ」に「ママ」の注記]ンだ
出羽よ泣くな
大きなもの力強いものが
どんどん揺れたり
倒れたりする職業《しやうばい》を
将来もつづけて行つたらいゝ、
相撲にも新しい考へが入つた、
君の仲間
天龍関其他三十余名が
髪を切つてザンギリにするとき君は、
『おらあ、村に帰つても
飯は四人前喰ふし
不景気な村には暮してゐれねい
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