玩の蘭の手入れ
一枚一枚その筆で葉を洗ふ仕事
それを毎日繰りかへす。
一人の女中さんは
お米を一粒づつ選む仕事
虫喰ひのないやう、
欠けたのがないやう、
完全な丸さのお米を選む、
一人の女中さんは、
その米を三時間
ザクリザクリと
玉のやうに磨きあげる仕事、
一人の女中さんは、
狆の散歩の御相手、
一人の書生さんは、
坊ちやまの御相手、
坊ちやまと言つても
当年二十三歳の坊ちやま、
この大坊ちやまが空気銃を手にして
大きなお庭を走りまはるとき
彼は空気銃の弾を
手の上にのせて尾いてあるく役、
それぞれ役あり、
すべて芽出たい
かなしい役ばかり。
真人間らしく
自由を愛する道化師が
笛をとられて
指をくはへてゐるわけにはゆかないから、
わたしは吹くのだ、口笛を、
ところ嫌はず吹きまくるのだ、
ピューと、口笛を、
安眠を妨害するのだ、
人間よ、
泣かずにゐて
泣いたツラをしてゐるお前、横着者よ、
怒らずにゐて
怒つたふりをしてゐるお前、卑怯者よ、
さあ、さあ始めたり、
私のピヱロのやうに
真に泣き、真に怒り、
真にあいつらに刃向つてみたまへ、
どいつも、こいつも
真人間らしく
気取つて洋服など
お可笑くて、着て歩かれるかつていふのだ、
身をくねらして悪態を吐き
咽喉を押へられたとき
すばらしい、時代のうめきと呟きを
皆様に御披露したい、
そして私は、自分の額を
自分の手で打ちながら
かういふ時代にふさはしく
まず額をうつ自己批判からの
演技にとりかゝります。
相撲協会
大きなものを形容して
国技館のやうだといふ
あそこはまつたく大きいからね
大きな円天井でがらんとしてゐる
力強いものを形容して
相撲の四本柱のやうだといふ
がつちり四つに組んだ向き合せよ
出羽ケ獄よ
泣くな
君にふさはしい棲み場所は
全く国技館よりないと
泣く程思ひ込んでゐるとは
無理もないことだ
すべての移り気の多い
観客の中にあつて私は唯一の
君の支持者でありフワ[#「ワ」に「ママ」の注記]ンだ
出羽よ泣くな
大きなもの力強いものが
どんどん揺れたり
倒れたりする職業《しやうばい》を
将来もつづけて行つたらいゝ、
相撲にも新しい考へが入つた、
君の仲間
天龍関其他三十余名が
髪を切つてザンギリにするとき君は、
『おらあ、村に帰つても
飯は四人前喰ふし
不景気な村には暮してゐれねい
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