護るために、
そして我々はたたかひに出てゆく、
どうして我々が、怒つてゐる牛と民衆の前で
八百長などやれるなどと思ふな
汗をながして精一杯にたたかふだけだ、
最も敵を猛らすものを
取り出すことに臆病であるな、
赤いマントを、ひいらり、ひいらり、飜へして肉迫するとき
いかに相手のするどい角を避けつゝ
相手を倒すことが
困難であり
技術が要るかを考へよ。


シェ[#「エ」は小さい「ヱ」]ストフ的麦酒

我々は軽蔑されよう、
我々は愚劣さを誇示しよう、
その時、我々はきつと陰気でなく、
機嫌よくそれをせよ、
我々は大胆不敵であるとき
何処からともなく
そよ/\と爽快な風がふいてくる、
心と体とがマリのやうに弾む
我々が道徳を無視する瞬間は
我々は古い船から
新しい船へ飛び移つたときだ、
岸から突き離してしまへ
古い道徳の入つた船を
河がどんなに美しく流れてゐようと、
彼等の眼には愚劣な姿態にみえるだらう、
我々は我々の神経の火花を
河の上の花火のやうに
火薬の爆発の瞬間のやうに
楽しまなければならない、
曖昧でないものはない
君はそれを信じなければいけない、
すべての物がまだ曖昧さにあると――、
もし君が曖昧さを真実憎むのであつたら、
そのものに就いて憎み燃え尽きることだ、
私はにくみつくし
そして更に綿々としてにくしみは続く
私は彼等を
驚ろかすに足りる妖怪と
なることをむしろ名誉とする、
私は首をはねられるときまで
歌ひつづけることができるらしい、

私は咽喉をうるほすとき
ビールの運命をしみじみと
考へてやつたことはない、
あるひはビールの奴は私の酔つぱらひを
笑つてゐるかもしれぬ、
だが私はいつも私のために
奴を平然と呑み下す
だが友は私のやうにしない
シェ[#「エ」は小さい「ヱ」]ストフ的に麦酒を悲しんでのむ、
それは彼にとつてはビールを
のんだことにならないだらう、
ビールを吐き出したことになるだらう、
私は対象を吸収するために
この世に生れてきたものだ、
私はかうした朗らかな方法をとる
無産者の健康法だと思つてゐる
だから私は真実に酔ひ
且つ健康でゐられるのだらう。


それぞれ役あり

大きな邸に十人の女中、
五人の書生、
書生さんの言ふことには
わしらの仕事は楽にちがひない、
一人の書生は
朝から縁側に腰かけて
手にした筆に水をひたしては
御主人の御愛
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