。
×
乳房の室のたそがれには
あかい服の侏儒たちがあせみどろになつて
媚薬の調合に
かちかちとふらすこを試験管をならす
室にならべられた水晶の壺にくすりがいつぱい溢れたとき甘い媚薬の蜜に
たくましい白蟻が集ひ
よつて、踊つてなげいてゐる
そしてみにくい争闘に日をくらす。
風呂
なないろ光線のげんわくのあとにあんこくのさくれつとなる
小気味よい世紀末がきたなら
おれたちふたりは
灰色のだぶだぶの服をきて
べろべろ笑ひの笛をふき
手に手に琥珀の椀を持ち
をんなといふをんなの
みわくの動脈から
いつはりのぶどう酒を
いつぱいづつ貰つてあるかうよ
いつぱいづつ
貰つて歩かうよ
さあみんなこい
みんなこい
さあみんなこい
みんなこい
にごつたぶどう酒の
千人風呂にひたつて
そして男たちは魂の傷ぐちを洗はう
子供たちに
街を歩むとき
手をふり元気よく
おあるきなさい
夜やすむとき
足をうーんと伸ばして
おやすみなさい
ちゞこまつてはいけません
日蔭に咲く花のやうに
みじめに
しなびてしまひます
白い蛇
ああ
あまつたるい重くるしい夜のくさむらで
白い蛇が二匹
こんがらかつてくるまつて
だきあつてねむつてゐる
しあはせな蛇である。
うらやましい蛇である
危険な猟師
この猟師は獲物のない
いらいらとした猟師です
火をつけた火繩をぶんぶん廻しながら
街をいそがしく歩きまはる
弱虫で向ふ見ずで臆病でなまけものの若い猟師です
だんだん
だんだん
火繩の火がもえ移つて親指に密着くと
あわてて口火をつけるのです
それが劇場の人ごみの中でも
手応へのない澄んだ碧空へでも
自分の咽喉笛へでも
その筒口の向いたところ
いきあたりばつたり火蓋をきる
まことに、まことに
若い危険な猟師である
きまぐれな猟師である
踊る人形
みなさん。
このがらすばりの箱の中の
いかにも
ひからびて
やせこけた
哀れな人形の踊りをみて下さい
この人形はいつも
をんなじ服をきて
ぴよんぴよん。ぴよんぴよん
をんなじ踊りを
おどつて居ります
ああなやましい
みじめな人形はわたしです。
酒場と憂鬱
酒場の時計は陰気な時計だ
この卓子《テーブル》をひつくり返して了へ
コップが
途方もなく臆病な金切り声をたてゝ壊れ
白い洋食皿が
げらげら笑つて壊れた
ソース瓶のソースの色が
俺の腐つた血によく似た色だ
×
いつでも いつでも
俺の顔をじろじろみる
卓子《テーブル》のもくめの奴がしやくに障る
まあよい……まあよい
俺は機嫌をなほして
五色の酒をつくらう
そしてはにかんだ女のやうにうつむいて
そつと呑まう
×
あれあれ
この室の中のお月様は
妙に青白いお月様だ
俺の舌をビフテキにして
刃のない洋刀で
ちび/゛\刻んで喰ひたいものだ
月夜
月のない、あかるい月夜
あをじろい月夜
あひびきの女がどこかのくらやみにひそむ
あをじろい月夜
笛が鳴つて
笛が鳴つて
按摩の笛が鳴つて
きえてしまつた月夜
いるみねーしよんの松の樹に
首くゝりの首が
のびたり、ちぢんだりしてゐる夜である
なやましい月夜である
煖炉
ダクダクダク×××胸
この暖気の中から女が生れる
ダクダクダク×××胸
この暖気の中から情慾が生れる
鉄瓶は踊る
蓋を廻る、湯気…………白輪
爪先から這ひ上る肌よ
強烈な酒を盛つたカップよ
テーブルを辷《すべ》つて来い
この聖者の魂の壁を
きまぐれに刻む
カリ××カリ…………と刻む
サタンよ、去れ
まだ……まだ、あいつは
煖炉の上でバタを溶かして居るな
春情は醗酵する
一
真夜中の慾情は星のやうに青く輝き
さんらんと其処此処のくさむらで
露のやうに光りかがやいてゐた
しかしこの慾情も
冬の風景のなかにしづんでしまふと
ひからびた粘土のやうに
かさかさと風にとんでしまふ
かつては重たくやさしくもつれあつた
春情のおもかげも
こゝに寂しくやるせない悶々の思ひに
はるかにちりぢりにちつてしまつた
そのかけらはつめたい氷のやうで
いまさら拾ひあつめるすべもない
ふしあはせな北国の人々は
けふも真冬の風物に白くさらされて
血温は凍つた外界の大気とひとしくなつて
青春もむなしくふるへをののいてゐた
二
或る日
男はすとをぶ[#「すとをぶ」に傍点]にあまりちかくよつて
腰をあたためすぎたので
病的にもあやしく手足をふり
はげしくはげしく手足をふり
膝頭をうちつけたり
両手ではげしくさすつたり
真昼の光線を浴びた蠅がよくするやうな
奇怪なまねをはじめだした
感情はますます激しく燃焼し粘着し
あやしい運動はますますはげしくなつてきた
男はなかば瞳をつむつたかたちで
霧のやうな空気のなかを
魚のやうにさかんにおよぎ廻つ
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