娘の
勤め場所
トゲの重役
脂肪《あぶら》の口説《くぜつ》
うんと言はねば 馘首《くび》となる
ドンドロ、あんどん、昼の夢。
彼は行儀が悪い
アメリカよ、先づ君を褒めよう、
荒い感情の面の露骨な
光沢をもつた君の風貌を
それから支那と日本をともすれば
ごつちやに考へたがる君等の為めに、
日本を無頼漢たらしめようとする
君等の遠大な計画運動の為めに、
海の上を耕作機を曳いてくる
アメリカの偉大な努力に敬服しよう。
いかにも君等は日本の
いたるところに粗雑な肉体的な火を撒いた。
耕作上手な君等、
食へるシャボテンまでつくりあげた
品種改良の本場から
はるばるやつて来た老練な君等のことだ。
歪んだアメリカ的日本を
明日の収穫として犁を山野に打込む
そしてやがて日本の城や山脈、
東洋の思想の耕地がおそろしく足場の悪い
開け拡げたものであることに気づくであらう。
若し君等が日本の思想の一隅に
棲みたいといふのであれば
先づ第一にもつと行儀をよくすることだ。
君等の観光団は徒に騒ぐ
そして簾や紙の家に一泊して
風邪をひいて帰国する許りであらう。
新定型詩人に与ふ
君もなかなか曲者だよ
太陽がのぼるとき扇をひらいたことはね
自由詩が苦悶してゐるとき
散文詩型を主張したことはね、
だがちよつと許り扇を煽りすぎたよ、
平清盛は熱病に罹つたのだ、
こんどは自由詩型が、
君を煽いで
君ののぼせを引き下げてやる番だ、
まはりまはつて辿りついてみれば
君の座蒲団は元の位置にある、
そこで君は暫し沈思黙考するかね、
そこで君は扇をひらいて
ひとさし舞ふかね、
それとも長良川で
十二羽の鵜を十二本の糸で操る
鵜匠の熟練に感泣した
あくまで十二行の定型詩を主張するかね、
それもよからう、
散文詩型はインテリの泣言をいれる
良い叺《かます》であつたから
今度の定型詩も相当新しい
メランコリーが入る袋になるだらう、
鵜飼の霊感から
十二行の定型を成立させる君の天才ぶりを
証明したまへ、
鵜の真似をして溺れた
烏にならないやうに
一度主張し唾みこんだものを
ふたたび吐き出す醜態をしないやうに
すべては公衆の前で君が主張したことだ、
僕は永遠の自由詩型主義者として
君の主張の看視人として
証人として起たう
定型詩とは考へたものだ
不肖、頭の悪い小生には
どこを見廻しても
定型詩的現実はみつからないのだ、
それは小生にとつては
悲しむべきことだ
況んや君は定型詩で
詩を真実を
チョコレートかゼリーのやうに
菓子型に入れて
ポンポン抜いて作らうといふ寸法だな、
小生は、ただ呆然と君の主張を
捧げもちて余光を拝すのみだ。
ゴルフリンク
金曜日は恐ろしい嵐がふきまくつた
土曜日には晴れた
貴婦人の牡丹バケで
丹念に肌をたたいたそのやうに
雨で具合よく地がしめつた
日曜日には風もなく、埃りもたてぬ
お誂へ向きのゴルフ日和、
――滅法空が澄んで
なんと気持がよいだらう、
天は我々のために恵ぐむよ、
天は救くるものを救くるさ
ゴルフ紳士達は嬉しさうだ、
鉄道の配車係りは
ゴルフ場行十輌連結
特別列車は[#「は」に「ママ」の注記]出発させる
×
破れた農家では母親ががなる、
――吉弥あ、
けふは旦那たちがゴルフに
御座らつしやるだよ、
早う駅へ駈けろ
汽車が着くだ、
母親は暗い押入れの中から
ススけた行李を引ずりだして
たつた一枚よりない取つて置きの
紺絣の着物を出して子供にきせる
子供はボンヤリと立つてゐる、
――吉弥あ、
何でもいゝから、
ハイハイいふて頭下げるだ、
まちがつても楯つくでねいだよ、
土百姓の餓鬼が
銀行さまや、活動のお嬢さまや、
偉い、位の旦那の前に出るだあ、
そそうのねいやうにしろよ、
何でもハイハイいふて
口ごたいするでねいぞよ、
すると子供はうんうんうなづく
――おつかあ
行つてくるだ、
おつかあ、また
チョコレート貰つてくべいか、
――馬鹿あコケ、
貧乏人の餓鬼は
貰ふこと許り考へてゐるだ、
旦那方もの食ふても、
ぢろぢろ見るでねいぞよ、
何万円のしんしようの旦那がたと
水呑百姓のわしらと
いつしよくたにならねいだぞ、
いゝか判つたか、
判つたら、出かけるだあ、
すると子供はうんうんうなづく
そして一散に駈けだす
×
見渡すと広い大ゴルフリンク、
緑りの草ははるかに
なだらかな丘のかなたにつづく、
――どうして此処にこのやうな
広大な地域が残されて
ゐたのだらうと
汽車の窓からみた者は
誰しも疑ひをもつ程にも
誰に遠慮会釈なく
この人々の健康のために
土地は遠くまで
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