んをよびあそびけるかな
お可笑《かし》けれおみな子なれば母ぶりて人形などを抱くなりけり
さんだんにうねりてみゆるお河童《かつぱ》の髪ゆりていまし駆《かけ》りくるかな
女なればうちまたにあゆむ咲ちやんのちさき足袋はましろなるかも
おはぢきにわざと負ければうれしきと手ふり足ふり踊るなりけり
金魚と死
霜ふればしんじつ命愛《は》しとおもひ金魚に死ねといひにけるかな
千べん万べん命のかぎり玻璃鉢の金魚はあはれ尾鰭《をひれ》うごかす
くれないの金魚は体かたむけてあはれ大きく水のみしかな
六匹の金魚いつしか一匹となりし朝なり雪ふりしかも
なにもなき金魚の鉢のさびしさに炉石《ろろし》おとせば底に鳴るかも
酒場と南京玉
おのれてふ男はついに酒をのむことを知りしがさびしさはます
冷えまさる秋の夜更けに酒のめば懐さむくなりにける哉
銀色の尻《しり》振《ふり》時計《とけい》しりふるをみつつに酒をのめばさびしも
酒肆《さかみせ》の女のつなぐ青赤の南京玉はよくひかるかも
青赤の南京玉を灯《ひ》のもとにひとつひとつにつなぐ淋しさ
さやさやと秋の葉ずれの音たてて南京玉のよくころぶかも
栗色の丸テーブルに酒代《さかしろ》の銀貨ををけばころげたるかも
広野
野にたちてひとさし指をたかくあげとまる小蜻蛉《こあきつ》とらへけるかも
眼もはるの野の一角に風おきぬ盆花ちりぬあかく小さく
ほろびたる秋の草花手にとりて月のひかりにすかしみるかな
ほそりゆく道の極みにひろびろの野をみいだして走りけるかも
はるばると来はきつれども平原にあゆむあてなし草に坐りぬ
さびしきは村の端《は》づれのはねつるべ半円ゑがききしるなりけり
風わたる野の枯草のいたましさ折りて抱《いだ》けど顫《ふる》ひやまぬかも
ゆきづりにつみし稲穂のつぶつぶをしみじみ噛みてあゆみけるかな
朝の陽の苺のあかさ眼にひろひ山いつさんにくだりけるかな
黄昏れの山上にきて街みれば電灯ぱつとともりたるかな
山に立ち街みをろせばたくさんの魔術師街をあゆみ居るかも
ぴろろろろクラリオネット夕暮れのしづけさやぶり街に流るる
うづくまり松の根もとの蟻をみるゆき逢ふごとに低頭《じぎ》をして居る
山狭の土の窪みにくさぶきの屋根かたぶけてすまへるか人は
もの言はぬ男のごとく焼山の樹々すくすくとたちにけるかな
児らふたり霞網もちむかつ山にうごけるがみゆ真白き帽子
みはるかす畠のあら土うねうねを赤くくまどり陽は落ちにける
どよもして汽車はすぎにけるそのあとはあたりしんしん静かなるかも
土手下に蛙《かはず》ころころなきいでぬさみしらにまた口笛をふく
やめよ子等しら樺の樹のかははぐをいたいたしきぞあかき肌みゆる
樹の樹皮《じゆひ》に木虫みつけぬ児ら焼きてよろこびて食《は》む疳の妙薬
幻影の壺
ましろなる沼の白鳥とろ壺にまぢかくをりて壺みかへらず
もろもろのけだものどもは泥壺をまるくとりまき吠えにけるかな
赤猫のあやしき舞ひにどろ壺はかすかにかすかにゆらぎけるかな
そのかみは蛇《じや》は壺をいだき死せるかな青き蛇紋のうかびあるなり
どろ壺の底をのぞけばむらさきのかなしみの精たまりあるかな
しんしんともろ手につたふ泥壺のどろのぬくみのなつかしきかも
彫刻のなきどろ壺はなめらかに青くさびしく月にひかりぬ
養鶏場にて
雌鶏はゆきつもどりつ鶏小屋に陣痛するとなきにけるかな
めんどりは陣痛するとみづからの腹のにほひをかぎにけるかな
どよもしてみな走りゆくにくらしさ食卵のくせ鶏らはしりぬ
愛《いと》しければ鶏の餌にもと雪ほりてキャベツ畠のキャベツをさがす
折々雑記
夜となれば酒をひた欲るつぶら眼の夢遊病者となりにけるかな
しづか夜の辻うら売りを愛ほしとおもひしづかに酒のみしかな
悲しさよわれにむかひて鳴きてゐる虫の言葉をきく耳もたず
蟋蟀の鳴く音止めむと叢《くさむら》を夜露にぬれてゆれどやまずも
ていねいに夜の小路《こうぢ》の大き石はぎてみたれど蟋蟀は居ず
夜の街鉞《まさかり》もちて男ゆくふつとおそれのわきにけるかな
連れだちてあゆむ汝《な》が母みめよきを妾腹《しようふく》の子よ悲しからずや
夜の街うつろにものを言ふごとく声ひびかせて人すぎにける
われ死ぬるときのさまなど夜の床に夜着をかむりておもひけるかな
差押へその赤紙をみつめつつ兄はへらへら笑ひけるかな
へらへらと笑ひし顔のさびしかり青くつめたくみえにけるかも
酒のみて歌をうたふを淫乱とおもふな女さびしければぞ
寂しさは沼の水泥にうづもれし壺のこころのごとき夜の更け
虫のごと呼吸たへるまで秋さむの河岸にいで歌をうたはむ
いねがたく詩集手にとり表紙画のあを
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