雨中記
小熊秀雄

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)男同志[#「志」に「ママ」の注記]の
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 電車を降りて××橋から、雨の中を私と彼とは銀座の方面に向つて歩るきだした、私と彼とは一本の洋傘の中にぴつたりと身を寄せて、黒い太い洋傘の柄を二つの掌で握り合つてゐる。
 男同志[#「志」に「ママ」の注記]の相合傘といふものは、女とのそれよりも涯かにもつと親密な感じがするものである、殊に私は彼とこんな機会でなければ、おたがひにかう激しく肩を打ちつけ合ふことはあるまいと考へた。
 彼の肩は大きい、私の肩は瘠せて細い、彼の肩幅の広くて岩畳[#「畳」に「ママ」の注記]な傍に添つてゐるだけでも何かしら安心ができる気がする、また彼の額は深く禿げあがつて赤味を帯びて光つてゐる、彼がのしのし[#「のしのし」に傍点]と歩るいてゐるのに、私は気忙しい足取りで、それに調和しようと努力する、彼の醜怪なほど逞しい赤い額は、暗い雨雲も押しのけてしまひさうな頑健さだ。
 二人は雨の日に銀座の散歩に来たといふことを少しも後悔はして居ない。
「濡れる
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