女などといふものは、非常に敏感ですぐ冷静になりたがるものだ。だから何より女を絶えず興奮させてをくといふことが大切なことだ。
 と――彼は煽動した。
 水島も、内心あまりに遊びすぎたことを後悔した。そして結局女から何物をも得てゐないことを考へ、寂しがつた。殊に女をすつかり訓練してしまつたことが、既に救ひのないことだと観念した。
 ――随分愉快に楽しんだよ、このまゝ二人が別れたところで、僕としては充分に遊び尽したから悔ひはないよ。
 水島は眼を伏せてこんなこともいつた、然し舞台の上の俳優がふつと消えてしまつたのも、気づかずに、広い劇場の座席にたつた一人坐つてゐるやうな、馬鹿げた観客にはなりたくなかつたので、彼はせつせと水島をけしかけた。
 或る日、水島は朗かな顔をして下宿を訪ねてきた。
 その顔は何事かに感謝をしてゐるかのやうに。
 話題は、涯かな遠くの方から出発して、水島自身の恋愛事件に到達した。
 水島は前夜、活動常設館に女を誘つて出かけたといふ、二人は活動写真館の三階に陣取つた、この三階は屋根裏で、天井が低く暗かつたので、人眼をはゞかる二人にとつて屈強な坐席であつた。
 ――男は、女
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