塩を撒く
小熊秀雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)鳶《とび》に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ちよつかい[#「ちよつかい」に傍点]を
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ワン/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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(一)
彼は木製玩具の様に、何事も考へずに帰途に着いた。
地面は光つてゐて、馬糞が転げて凍みついてゐた。
いくつか街角をまがり、広い道路に出たり、狭い道路に出たりしてゐるうちに、彼の下宿豊明館の黒い低い塀が見えた。
彼は不意にぎくりと咽喉を割かれたやうに感じた。
――ちえつ、俺の部屋の置物の位置が、少しでも動かされてゐたら承知が出来ないぞ。
彼は山犬のやうな感情がこみあげてきて、部屋の方にむかつてワン/\と吠え、また後悔をした。
彼の親友である水島と或る女とが恋仲となつた。
二人の恋仲は、まるで綱引のやうな態度で、長い間かゝつても少しの進展もしなかつた、声援をしたり、野次つたり見物したりしてゐた彼は、まつたく退屈をしてしまつたのだ。
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