イアに来たばかりで、もう花崗石だの、石灰石だのという、ロンドンあたりでは見られぬものが地上に顕《あら》われて来たので、これが地盤の下にある岩石[#「岩石」に傍点]かと、その喜びと驚きとは非常であった。また海[#「海」に傍点]を見るのも初めてであり、ことにフランスの海岸に近づくと、熱心に南方を眺め、岸に着いては労働者を見て、文明の劣れる国だと驚いた。
 それから税関[#「税関」に傍点]の騒擾《そうじょう》に吃驚《きっきょう》したり、馬車の御者[#「御者」に傍点]が膝の上にも達する長い靴をはき、鞭をとり、革嚢《かくのう》を持っているのを不思議がったり、初めてミミズ[#「ミミズ」に傍点]を見たり、ノルマンヂイの痩せた豚[#「豚」に傍点]で驚いたりした。
 パリではルーブルを見て、その寳物[#「寳物」に傍点]を評して、これを獲たことはフランスの盗なることを示すに過ぎずというたり、旅券の事で警察に行ったら、ファラデーは円い頤《あご》で、鳶色の髪、大きい口で、大きい鼻という人相書[#「人相書」に傍点]をされた。寺院に行っては、芝居風で真面目な感じがしないといい、石炭でなくて木の炭を料理に使うことや
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