人なので、ファラデーはすっかり職人生活が嫌いになってしまった。「商売のような、利己的な、反道徳的の仕事はいやだ。科学のような、自由な、温厚な職務に就きたい」というておった。それでダンスに勧められて、自分の希望を書いた手紙を[#「手紙を」に傍点]デビーに送り、また自分の熱心な証明[#「熱心な証明」に傍点]として、デビーの講義の筆記も送った。しかし、この筆記は大切の物なれば、御覧済みの上は御返しを願いたいと書き添えてやった。この手紙も今に残っているそうであるが、公表されてはおらぬ。
 デビーは返事をよこして、親切にもファラデーに面会してくれた。この会見は王立協会の講義室の隣りの準備室で行われた。その時デビーは「商売変えは見合わせたがよかろう。科学は、仕事がつらくて収入は少ないものだから」というた。この頃デビーは塩化窒素の研究中であったが、これは破裂し易い物で、その為め目に負傷をして※[#「火+欣」、第3水準1−87−48]衝を起したことがある。自分で手紙が書けないので、ファラデーを書記に頼んだことがあるらしい。多分マスケリーの紹介であったろう。しかしこれは、ほんの数日であった。
 その後し
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