ある。偏光を重ガラスに送ったのが磁気の作用[#「作用」に傍点]で偏光面が廻転した時である。酸素やビスマスも磁性のあることを知った時である。
ファラデーは研究している間、大きな紙に覚え書きを取って行き、実験が終るとそれを少し書きなおし、一部の順序を換えたり、不要の箇所を削ったりし、番号のついた節を切る[#「番号のついた節を切る」に傍点]。これで論文が出来あがる。かかる疑問を起して[#「かかる疑問を起して」に傍点]、かくかくの実験を行い[#「かくかくの実験を行い」に傍点]、これは結果が出なかったということまで書きつづり[#「これは結果が出なかったということまで書きつづり」に傍点]、最後に良い結果の出た実験を書く[#「最後に良い結果の出た実験を書く」に傍点]。
三五 学者の評
デ・ラ・リーブは「ファラデーは予め一定の考案を持つことなしに、器械の前に立って研究を始めたことはない。また他の学者がやる様に、既知の事実をただ細かく[#「ただ細かく」に傍点]実験して見て、定数を測定するというような事もしないし、既知の現象を支配する法則を精しく定め[#「精しく定め」に傍点]ようとした事もない。ファラデーのは、これらとは非常に異なる方法で、神来によるかのごとくに既に研究された方面とは飛び離れ、全く新生面を開く大発見に[#「全く新生面を開く大発見に」に傍点]と志した。しかしこの方法で成功しようというには一つの条件が必要で、それは即ち稀世の天才たる[#「稀世の天才たる」に傍点]を要するということである。ファラデーにはこの条件が満足されたのだ。ファラデーは自分でも認めておったように、想像力の非常に豊富な人で[#「想像力の非常に豊富な人で」に傍点]、他の人が気もつかない様な所までも、平気で想像を逞しくして実験にかかったのである。」というた。
またケルヴィン男の言葉にも、「ファラデーは数学を知らなかった。しかし数学で研究される結果を忖度《そんたく》し得た。また数学として価値のあるような結果を清楚な言葉[#「清楚な言葉」に傍点]で表わした。実に指力線[#「指力線」に傍点]とか磁場[#「磁場」に傍点]とかいうのは、ファラデー専売の言葉であって、数学者も段々とこれを用いて有用なものにした。」
三六 実験して見る
ファラデーはいかによく書いたものでも、読んだだけでは、しっかり[#「しっかり」に傍点]と、のみ込めない人であった。友人が新発見の話をして、その価値や、これの影響いかんというようなことを聞かされても、ファラデーは自分で実験して見たものでなければ、何とも返事が出来なかった。
多くの学者は学生や門弟を使うて研究を手伝わせる[#「手伝わせる」に傍点]が、ファラデーにはこれも出来ない。「すべての研究は自分自身でなすべきものだ」というておった。
ロバート・マレットが話したのに、十八年前にムンツの金属という撓《たわ》み易いが、ごく強い金属を硝酸第二水銀の液に漬けると、すぐ脆《もろ》い硬い物になることをファラデーに見せようと思って持って行った。ファラデーが早速この液を作ってくれたので、自分がやって見せた。ファラデーの眼前で[#「眼前で」に傍点]、しかもすぐ側で[#「すぐ側で」に傍点]、やって見せたのだから、まさか疑ったわけではあるまい。しかしファラデーは見ただけでは承知できない[#「承知できない」に傍点]と見えて、自分でまたやり出した[#「またやり出した」に傍点]。まずその金属の一片をとって、前後に曲げて見、それから液に漬け、指の間に入れて破って見た。この間ファラデーは黙ってやっておったが、漸《ようよ》う口を開いて、「そうだ、軟《やわらか》いが、なるほどすぐに脆くなる。」しばらくしてこれに附け加えて、「そう、もっと何か、こんな事は無いでしょうか。」「新しい事は、これ以外には別にない」と言うたら、ファラデーは多少失望して見えた。
ファラデーがある事実を知るのには、充分満足するまでやって見ることを必要とした。それですっかり判ると、その次にはこれを他の事実と結んで[#「結んで」に傍点]、一つにして[#「一つにして」に傍点]考えようと苦心した。実験室の引出しの内に在った覚書に、こんなのがあった。
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四段の学位
ある新事実の発見。
この新事実を既知の原理にて説明すること。
説明出来ないような新事実の発見。
その新事実をも説明し得るような一層一般的なる原理の発見。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から3字上げ]M、F、
三七 実験に対する熱心
ファラデーの実験に対する熱心[#「熱心」に傍点]は非常なもので、電磁気廻転を発見したときに、踊って喜んだことは、前にも述べた通りである。光に対する磁気の作
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